ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 1. #.1 “SKY WIND”
( ―― 目標地点、地下複合都市“アンバー・クラウン”地上施設を前方に確認 ―― 施設及び周辺の熱スキャンを開始します
――
)
変わりばえのしない、無感情なACのコンピュータ・ボイスが彼にそう告げていた。
AC、というのはアーマード・コアの略称であり、コックピットを搭載する“コア”を中心とし、腕や脚など機体を構成する部位をパーツ化することにより、それらの構成を変更することで高い汎用性を実現する“コア構想”を取り入れた大型の戦闘兵器のことを指す。
彼
―― アオイが搭乗するこの機体、“天風(あまつかぜ)”は二脚型 ―― 所謂、人間型のACである。
桜色 ――
というにはいかんせん色彩がきつ過ぎる、派手なマゼンタカラーの“天風(あまつかぜ)”は、超大規模な人類による終末的戦争によって破壊し尽され、荒野のようになった地上を、ブースタの青白い燐光を煌めかせつつ直走っていた。
「あれが“アンバー・クラウン”の入り口か・・・・・・」
前方三キロに迫った目的地の映像が正面のモニターの、左側に映し出される。堀のように落ち窪んだ場所の奥に、角張った形状をした建物があった。
世界最大級の規模を持つ地下都市、“アイザック・シティ”を拠点として活動するレイヴン
―― 強大な力を持つ大企業によって管理されるこの世界において唯一自由な存在であると目される傭兵 ――
である彼にとって、“アンバー・クラウン”の地に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。
(熱スキャン結果を表示します ――
)
コンピュータがそう告げたのは、残り距離が二キロを切ったときだった。
「立抗(シャフト)入り口の周辺に四基の大型の構造物・・・・・・これが例のジェネレータか・・・・・・。とすると施設の上にある七個の物体はさしずめ防衛用の砲台か何かってとこか・・・・・・」
右手にあるサブスクリーンに表示されたスキャン結果を眺め、呟く。“アンバー・クラウン”地上施設まで、残り一キロだった。
アオイの元にその依頼が届いたのは、四日前のことだった。傭兵組織、レイヴンズ・ネストに属さないフリーのレイヴンとして名の知れた彼(ネストから見れば甚だ邪魔な存在であるが)にとって、直接依頼が自分の端末にくることはさして珍しくないことであった。
だが、その依頼内容は、単純明快ではあるが、同時に非常に不可解でもある、微妙なものだった。
(地下複合都市“アンバー・クラウン”に侵入してもらいたい)
依頼のメールにはその文面と、やけに高額な報酬額しか書かれていなかった。
危険な香りはするが、彼は依頼を受ける旨を、名前すら伝えてこなかった依頼主に返信した。レイヴンという仕事自体、常に死と隣り合わせのようなものなのだ。特に彼のようなフリーの傭兵の場合、傭兵組織
―― ネストから目の敵にされることも多く、同業者に狙われるという危険もかなり増すことになる。
もっとも彼 ――
アオイの場合、襲い掛かってくるような輩は尽く返り討ちにしているのだが。
自由な存在である傭兵のなかでも、殊更に自由な存在がフリーのレイヴンであった。
メールを送って一時間ほどたった後、侵入の手順について書かれたメールが送られてきた。
(依頼を受けてくれたこと、感謝する。侵入方法について簡単に説明しておく。まず地上施設の周囲にある四基の大型ジェネレータを破壊してくれ。そうすれば入り口のロックが解除される筈だ。その後は道なりに進み、最終ゲートに到着したら、そこにある装置四基を全て破壊してくれ。ゲートを開けてすぐの場所で待っている。以上だ。よろしく頼む)
文面からは依頼主が男なのか女なのかは判断できない。別にどうでもよいことだが。
それにしても相変らず、侵入の「目的」に関しては希薄なままであった。一体どういう理由があるのか見当もつかない。
――
俺をテロ屋とでも勘違いしているのだろうか。
疑念が脳裏を過ぎる。
――
何か重大な目的があるのか、はたまた、ただ単に罠なのか・・・・・・
――
行ってみればわかることだ。そこに。
指定された日は四日後 ――
つまり今日だった。
フリーであると困ることの一つに目的地までの移動が挙げられる。
ネストに属していれば専用の輸送ヘリで運んでもらえるのだが、そうでない場合、ACで現地まで突っ走っていくか、自力でそこまでの足を探すしかない。
今回は結局、懇意にしている運び屋(アオイは合法・違法を問わずこういった業者に関して顔が広かった)の都合がつかなかったため、こうして朝早くから走っているわけだ。時間までは指定されていなかったから、今日中に侵入し、最終ゲートに到達してそれを開ければ文句は言われないだろう。
既に目的地は眼前に迫っていた。
メインモニターの拡大表示を消し、機体を軽く跳躍させて施設のある窪みの底に降り立つ。そして正面へと目を向ける。
四基のジェネレータに囲まれた入り口施設の上には、七つの砲台が確認できた。
恐らく、形からしてガトリングガンが四基と、グレネード砲台が三基。まだこちらには気付いていないようだ。
侵入するときのことを考えると、今破壊してしまった方が良いだろう。指示にはないことだったが、円滑に侵入するには必要な行為と思われたし、何も完全に依頼主の言いなりになることもないだろう。
ちなみに、地下都市というものは世界各地に多数存在している。
人が住めるような場所ではなくなった地上世界から、ほぼ全ての人類が去った結果である。
なぜ地下都市を武装するのか
――
壮絶な戦争によって自然と恐怖を意識下に植え込まれた人々は、「外敵」への潜在的な怖れから地下都市に防衛機能を備えさせたのだ。
ここ“アンバー・クラウン”の地上施設はまだ大人しいほうだが、他の都市にはまさしく何者も通さないといった感じで重火器がしつこいほどに並べられているようなところもあった。
かつてアオイがそこの破壊工作をとあるテロ集団から依頼されたときは、こちらからは手を出さず、自爆・同士討ちを誘ったところ呆気ないほど簡単に壊滅した。
備えあれば憂いなし、という諺があるが、備えすぎにも問題あり、ということか。
“天風”が右手に握る改造型リニアライフル
――
“リニア発射機構”という他の銃器とは一線を画した機構により、特殊弾体を高速で撃ち出す“リニアライフル”を、アオイが知り合いの闇の武器商人、アドヴァントに大幅な改修をさせた逸品
――
を構える。
銃口の先にあるのは、無数の砲台群。“リニアライフル”は弾道が直線的過ぎるため、動く物体を狙い撃つのは少々難しい。しかし、音速を超える速さで飛来する弾は、近距離ならば瞬きの間に到達するので、かわすのは容易では無い。その二つの要素によって、“リニアライフル”の命中率は標準か、それより少々下となっていた。
しかし、それはあくまで「武器の」命中率である。“リニアライフル”を何年も使い続けてきたアオイ、「彼自身の」命中率はそれとはまた別物だ。
加えて今回の目標物は、固定された砲台だ。外す訳が無い。
ライフルのトリガーが引き絞られ、乾いた音とともに弾が射出される。切り裂かれる空気に、剥がれ落ちる弾体表面コートの破片が粉となりそれと混ざり合い、空間に幻想的ともいえる波紋を生んだ。
発射された弾は一瞬にして数百メートルの距離を駆け抜け、手前のグレネード砲台の黒い装甲板に炸裂する。砕ける褐色の弾体に混ざって、黒い破片が宙を舞った。
立て続けに弾が撃ち込まれる。一発目で装甲を破壊された砲台に再び褐色の輝きが突き刺さった。瞬間、内部に装備されていたグレネード弾が一斉に誘爆し、ひしゃげた砲塔が空へと舞い上げられた。
やっとこちらに気づいたグレネード、ガトリングが猛射をかけてくるが、高速で機動する機体には掠めるだけで一発たりとも直撃することがない。
その間にも、一基、また一基と砲台が粉砕・撃破されていく。
彼のACは先のライフルに留まらず、全てのパーツが大なり小なり手を加えられており、企業が一般に販売するものをそのまま使用している部位はなかった。
企業の規格製品を改造し、使用することが違法なのか合法なのかは知らないが、企業側も専用のカスタムAC等を配備しているのだから特に問題無いだろう、とアオイは考えていた。
しかし、そういったことに対してやたらと五月蝿い奴はいるもので、今までに四、五人が彼に突っかかってきたのだが、それら全てが過去の人となったことは言うまでもないことだろう。
遂に最後のガトリングが爆発し、いくつかの空薬莢が、戦闘の爪痕がくっきりと残る地面に砕けた砲身とともに転がった。
「さてと・・・・・・」
ライフルの中央あたりに、前に突き出す形で取り付けられた弾倉を足元に落とし、コア下部のハンガースペースから新しい弾倉を取り出して填め込む。
このハンガースペースの形状や規模はコアによって異なるが、大抵の場合はコア下部の左右、人間でいえば脇腹に相当するところにある。これは主に武器の弾倉などを入れておくものだが、隠し武器
――
小型の銃器や接近戦用のグレネード弾等を格納するのにも使われる。普段はハッチが閉まっているため何を入れているのか外からでは判断できず、便利ではある反面、かなり厄介なものでもあった。
彼のAC“天風”の場合、正面から見て右側にはリニアライフルの弾倉が、左側には超小型のマイクログレネードが六発装填されていた。
しかしグレネードの類のものはこちらも被害を受ける可能性が高いので、アオイもよほどのことが無い限り、これを使用することはない
「始めるとするか・・・・・・」
守りを失い全くの無防備となった縦長のジェネレータの一基に接近し、その左腕を素早くふるう。同時に左腕に取り付けられた装置の下部が後方にスライド、青い、透き通るような光が伸び、ジェネレータの中央部を切断、空間にその余韻を残し、残滓が露の如く宙を舞った。
直後、上下泣き別れとなったジェネレータが倒れ、地面につくのを待たずして大爆発を起こした。アオイは機体を飛び退かせ、それに巻き込まれるのを防ぐ。
レーザーブレード
――
エネルギーを収束、一撃必殺の威力を誇る刃を形成し対象物を切断する、接近戦用の兵器だ。厚い装甲を持つACや機甲兵器でさえ瞬時に破壊しうるほどであるから、これにとって発電機など紙切れ同然だといえる。
アオイが使用しているのは、やはり改造されたものだ。一般的にエネルギーの収束率を高め、破壊力を優先したものはその分ブレードの展開範囲が犠牲となる場合がほとんどだが、
彼のブレード“ASL/00-LB-BREEZE”は、かの名刀“月光”に匹敵する威力を持ちながら、その1.5倍強の展開範囲を確保している。その反面、全体の重量はやや増加しているが、この性能を考えれば十分過ぎるであろう。
これも、ほとんどアオイの専属と化している武器商人、アドヴァントが手がけたものだ。
アオイをも唸らせたほどの性能を持ったこれは、製作者自身も「傑作だ」と評していた。
余談ではあるが、レーザーブレードにも銃器と同じく多くの種類がある。
兎に角刀身の長さを重視したもの、エネルギーのリロードを速くし、高速連続斬りを可能としたものや、刀身の長さを完全に度外視し、“月光”をも大きく上回る威力を持つものなどさまざまだ。
また、ブレードによって刀身の色も異なるため、それにこだわりを持つレイヴンも少なからず存在する。
残りの目標も同じように斬り倒し、施設のシャッターの前に立つ。基本的にこういった無抵抗の固定物はブレードで破壊するのがベターだ。弾の節約にもなるし、効率もいいからだ。
とはいえ、ブレードの真髄は、やはり対AC戦にあるのだが。
依頼主から提示された情報が本当ならば、これでシャッターのロックは解除されたはずだ。
もっとも、ロックされていたかどうかは調べていないのだが。
シャッター下部の凹みに指を入れ、一気に引き上げる。
果たしてシャッターは、なんの抵抗もなく開かれた。
しかし、わざわざロックを解除する必要があったのだろうか。強引に引き上げるだけでなく、ライフルで撃つなり、ブレードで斬るなり、方法は他にもあった筈だが。
依頼主がそれを指示してこなかったのは施設への被害を無駄に増やさないためだったのだろうか。
ジェネレータ壊滅とシャッター粉砕のどちらの被害が大きいか、答えは明白である。
こればかりは、依頼主の「気まぐれ」とでも捉えるしかないであろう。
そんなことは気にも留めていないアオイは不敵な笑みを浮かべ、独り呟く。
「“アンバー・クラウン”侵入、開始だ・・・・・・」
そのまま踏み出そうとするが、彼はその場に留まった。
その表情は、どこか楽しげだ。
聞こえるのは、近づいてくる、微細な音
――
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