ARMORED CORE FAN

アーマード・コアファン

ホーム  > 小説ギャラリー > Artificial Crisis  > 1. #.2 “NEST HEART”

機体を反転させ、アオイは既に赤みがかかり始めた空の、一点を見つめる。
そこには、徐々に近づいてくる、鋼色の物体 ―― 輸送用の大型ヘリの姿があった。

( ―― 未確認機が接近 ―― 機体下部にACと思われる機影を確認 ―― )

「ネストのお出ましか・・・・・・派手にやり過ぎたか・・・・・・?」

接近してきたヘリの前面には、バカみたいにでかでかと、“レイヴンズ・ネスト”のエンブレムが貼り出されていた。コックピット下の大部分を占領する、過剰ともいえる程の大きさだ。
ヘリの下部には、確かに二脚型のAC ―― この距離からみると玩具のようなそれが吊り下げられていた。

だんだんと大きくなる、ローターの回転音。
耳障りなその音を聞きつつ、アオイは近づいてくるヘリを、そのままの姿勢でじっと見ていた。

ヘリは距離約三百五十まで来たところで空中に静止し、吊り下げていたACを投下した。
ロックから解放された機体は速度を上げつつ降下したのち、砂煙を上げ、派手な音とともに着地した。

アオイはその大音声に顔をしかめる。

「もう少し静かに降りられないのか・・・・・・? そんなに派手な登場がしたいのか・・・・・・それとも、単なる新米か・・・・・・」

硬直を生むような着地は、初心者にありがちな行動だが、それ以外にも、現れたACのパイロットが低錬度であると予測させる要素はあった。
その、機体だ。

頭部パーツは、通称“レッドアイ”と呼ばれる赤いモノアイを持つ、レーダーも備えたなかなか優秀なものであるが、それ以外のパーツはどれも“ネスト”の支給パーツ ―― ネストが行う「レイヴン試験」とでも言うべきものを受ける際に、渡される、つまるところ非常に安価なパーツばかりだった。

その上、機体の背部には何も装備されていなかった。アオイはその試験とやらを受けたことが無いのではっきりとしたことは知らないが、そこにはレーダーと小型のミサイルランチャーが装備されていたはずだ。
おそらくは、それらを売り払って頭部を購入したのだろう。
結論として、その機体が保有する武器は、右手に持つ最安価のライフルと、左腕に装備された、これまた最安価のレーザーブレードだけであった。

ハンガーに何か装備している可能性も無くは無いが、この様子だと、多分何も入れていないだろう。
さらに言えば、その機体色も完全な初期状態である、ACを運んできたヘリと同じ鋼色だった。

このような機体を上級者が使う可能性が全く無い、とは言い切れないが、全ての要素を統合すれば、やはりあれに乗っているのは初心者である、との結論に達するであろう。


着地の反動から立ち直ったチープなACから、新米パイロット(アオイはすでに彼、あるいは彼女がそうであると確信している)の声が響いた。

『・・・・・・そこのいかれた色のAC! 野良レイヴンがこんなところで何をしている!』

声は男のものだった。高くも低くも無く、取り立てて特徴の無い声だ。どうでもいいことだが。

「いかれた色、か・・・・・・」

男の台詞に、怒りを通り越し呆れた様子のアオイは、回線をオープンにして口を開く。話に付き合ってやるのも悪くは無いだろう。
それにしても、“野良レイヴン”とは・・・・・・センスの無い言葉だ。

「見てわからないか? 侵入しようとしてるんだよ、ここに。それともあれか、俺がここに宅配便、届けにきたようにでも見えたか?」

我ながら何の面白みも無い、つまらん冗談だ、と思う。しかし、まさかそのつまらん冗談にまともに乗ってくるやつがいようとは・・・・・・

『貴様・・・・・・ふざけているのか!? もういい、こっちも仕事だからな・・・・・・後悔するなよ』

どっちがだよ、とアオイは心の中で呟く。
仕事・・・・・・「破壊活動をしているAC」を倒すのが目的なのか、それとも「“ネスト”に属さない邪魔なレイヴン」を“ネスト”が消そうとしているのか・・・・・・後者のような気がするが。以前にも、同じようなことは度々あった。その度に“ネスト”は駒を失っていったが。

アオイはおもむろにライフルを構えると、空へ向けて一発撃った。
敵はどこか呆気に取られたようだが、もちろん意味も無く撃ったわけでは無い。
弾丸の軌道上には、撤退していく輸送ヘリの姿があった。そしてその後部にそれが炸裂すると、前後に二基あるローターの内の後方の一基が砕け、機体から離脱する。
ヘリは大きくバランスを崩し、後部から黒煙をふき出しつつ高度を下げていき、そのまま“アンバー・クラウン”の外にある、深い谷へと消えていった。
数秒後、爆発音とともに大量の黒煙と火の粉が谷からふき上がった。

『な・・・・・・』

呆然とその様子を見ていた敵が弱々しく呟く。

「・・・・・・めでたく俺を倒して帰れるとでもおもったのか?」

いささか冷徹に言った。だが、返事は無かった。

そのまま数十秒が経過した。

『後悔するな』と息巻いておきながら一向にかかってくる気配が無い。
まぁ、新米ならあれを見て戦意を喪失するのも無理はないかもしれない。
だが、だからといってこのまま放置するわけにもいかないだろう。
後々邪魔をされても困る。

この距離からでも一発でパイロットを撃ち殺せそうな気もしたが、さすがにそれでは面白く無いし、虚し過ぎる。

仕方ない、もう一度、煽ってやるか・・・・・・

「弱い奴ほどよく吼える、って言うよな」

敢えて感情を全く込めずに言い放つ。

『き、貴様・・・・・・!』

図星だったのだろうか。ついに怒りが爆発したようのか、闇雲にライフルを撃ちながら突進してくる。戦意も一瞬で復活したか。単純な奴だ。

しかし、単純なのは精神構造だけではないようだ。
その動きは直線的で、非常に単純なものだった。やはり、初心者か。

冷静さを無くした奴ほど、倒しやすいものは無い。
別段この展開を狙ったわけではない。どっちにしろ、この程度の安っぽい挑発に乗るようでは、技術だけでなく精神面も三流以下だ。

飛来した弾の大半は背後の施設や地面に当たり、破片や土くれを撒き散らす。
恐ろしく劣悪な命中率だ。武器の性能が悪いわけではなく、単に彼の照準技術がゼロに等しいのだろう。おまけに冷静さを完全に失っていては・・・・・・

とはいえ、下手な鉄砲も数を撃てば当たる、という。このまま距離が詰まってくれば「偶然」当たる可能性それだけ上がる。

アオイは機体を空へと飛び上がらせると、ブースタを噴射し突進してきたACの上をとる。
それほどまでに無我夢中だったのか、敵はその動きすら掴めなかったらしく、明らかにうろたえた呟きを漏らす。

『な・・・・・・・一体、どこへ行った?』

折角“レッドアイ”装備してんだからレーダー見ろよ、と言いたくなったが、あまりにも哀れなため、自分の所在を教えてやる。

「お前の頭の上だ・・・・・・」

それを聞いた彼は、何を思ったかその場で完全に立ち止まり、盛んに上を見上げようとしている。あまりの負荷に首のジョイントが悲鳴を上げていた。ACは構造上真上を見上げることはできないのだが、それも知らないらしい。

後退すれば視界に捉えられるだろ、と叫びたくなったがやめる。
これは訓練ではないし、自分はその教官でもない。

未だに真上を見上げようと苦心する敵に呆れつつ、アオイはブースタを操り、機体を旋回させ、そのままACの背後を目標に、降下する。
地面につく寸前に、軽くブースタを噴かす。機体は小さな音とともに、相手と比べれば遥かに静かに接地した。たったこれだけのことで硬直を回避できるというものを・・・・・・

その音に気付いた敵パイロットは、あたふたと機体を旋回させる。
しかし、振り返ったACの赤く光るモノアイに映ったものは、暗い穴 ―― ロケットランチャーの砲身だった。

一瞬の硬直の後、その射線から逃れようと行動を起こすが、時既におそし。
発射されたロケット弾をまともに喰らった“レッドアイ”は、激突の衝撃と爆発によって、八割方が粉砕され、吹き飛び、スクラップと化した。

『う、うおおぉっ・・・・・・』

突然の衝撃と一時的に視界を奪われた(頭部のメインセンサーからコアのサブセンサーに切り替わるのには若干時間がかかる)ことで恐慌状態 ―― パニックに陥ったのか、敵パイロットは滅茶苦茶にライフルを撃ち始めた。完全にあさっての方向にまで、撃っている。
まさしく、盲撃ちだ。
とはいえさすがに至近距離なので数発、被弾する。しかしそれらは僅かに装甲を抉ったに過ぎなかった。

「安っぽい弾使ってるな・・・・・・そうだな、俺がそいつの最上級の弾売ってやろうか? 十発一万コームでどうだ?」

ちなみにライフル弾の相場はいくらいいものでも一発百コームに達することはごくごく稀だ。完全な挑発だった。この期に及んで、だが。

『貴様ぁ、いい加減にしろおっ!』

それでもしっかり反応してきた。おまけに今度こそ完全に切れたのか、左腕のブレードを起動させ、これまた闇雲に振り回し始めた。

これこそ気狂いに刃物だな、と思いつつアオイは機体を後方へジャンプさせ、リニアライフル立て続けに二発放つ。原因を作ったのが自分だ、ということは完全に忘れていた(あるいは自覚していないか)。

一発目、二発目共に正確に左腕の関節部を破壊する。そして、傷付いた左腕はブレードを振ると同時にジョイントが千切れ、横手へと飛んでいった。
地面に激突した腕は、暫くまるで生き物のそれであるかのように小さく蠢いていたが、やがて完全に沈黙した。

腕を失ったためか相手のACがバランスを崩し、よろめく。アオイはそれを見逃さず、再度懐へと飛び込み、同時にブレードを展開する。

袈裟斬りに振られた光刃は、ふらつき、為す術の無い敵の左腰から侵入し、装甲、内部構造を一気に斬り裂き、そのまま右足をも太股の位置で切断した。

斬られた両足が地面を叩き、遅れて支えを失った上半身が落下する。激しい音とともに、地面が二度、振動した。
アオイは転がる右足を無造作にどけると、敵の前に立ちはだかる。そして慌ててライフルを構えようとした右腕を左足で踏みつけ、地面に縫い止める。次いでリニアライフルをコアの中央、コックピットの位置に突きつけた。相手の、微かな苦鳴が聞こえた。

「・・・・・・飼犬が野良犬に勝てるとでも思ったか?」

揶揄を込めて言い放つ。返事は無く、代わりに罵るような呟きが漏れた。

「“ネスト”も、本当にいい事を思い付くよな・・・・・・」

『何・・・・・・?』

突然“ネスト”の話をし出した為か、どこか戸惑うような声だ。アオイはそれを予想していたのだろう、そのまま言葉を続ける。

「なんでお前みたいな奴を俺に当たらせたと思う? 奴らだってお前に勝機が無いことは分かりきっている筈だ」

『・・・・・・何が、言いたい』

挑むような声だ。自分をバカにされたと思ったか。
確かにそうではあるが、論点はそこではない。

「間引き、だよ。テストを兼ねたな。 “ネスト”にとって当然俺みたいなのは邪魔な存在だろう。何とか始末したい ―― だが、手に負えない。高ランクのレイヴンを向かわせればそりゃ勝てるかもしれんが、返り討ちにあったらどうだ。奴らとしても優秀な人材をみすみす手放したくないだろう ―― くだらん野犬狩りなんかでな」

『・・・・・・何が、言いたいんだ・・・・・・』

返ってきたのは、先程とほとんど同じ言葉だったが、その声は動揺しているかのように震えていた。さすがに、ここまで言えば馬鹿でも気付くだろう。

「どうせ成功する可能性が低いのであれば、行かせる奴はどんなのでもいい。行かせるのはどうでもいい、適当な駒で十分だ。
さて、そこでだ。行かせる候補に挙がるのはやはり新人、ルーキーだろう。だが、素質のある奴を死なせるのは勿体無い。あいつらだって一応プロだ。素質が有るか無いかぐらいわかる筈だ。で、残った奴 ―― 使えそうにないのを行かせるってわけだ」

アオイはそこまで言うと、一旦口を閉じる。
相手から、返事は無かった。そりゃあショックだろうな、と思う。結局鉄砲玉にされたと同然なのだから。

「で、大抵の奴はやられるだろう。だが、たまには運よく勝つかもしれん。そうして無事帰還した奴と、最初から目を付けていた奴等に絞って面倒見るってわけだ。
優秀な奴を育てた方が効率的だし、自分達のためにもなる。小数精鋭ならいざというときに誰かに足を引っ張られずに済むし、何より無駄が省けるからな」

最後の無駄、という言葉を強調して言う。これがまさしく止めの一撃となっただろう。哀れなレイヴンは打ちひしがれた声で小さく、呟いた。

『嘘だ・・・・・・』

お定まりの台詞だ。一つ溜息をつくと、返す。

「嘘だと思いたいんなら、それでもいいだろ。だが、これが現実だ。お前が、そんな所に居たということも、また事実だ」

冷たい言いようだが、これがまさしく現実なのだ。これと同じ事を繰り返すうち、入ってくる裏の情報も合わせて、そのことをアオイは悟っていた。

「“ネスト”に協力する気はさらさら無いが、こっちも“仕事”があるんでな・・・・・・いつまでもお前に付き合ってもいられん」

アオイは、もうほとんど赤く染まった空を見上げる。途中で色々と寄り道していたこともあったが、だいぶ時間を食ってしまったようだ。

“天風”の腕が一度引かれ、それからまたライフルを構え直す。
その動きを見た敵が、何事かを叫ぶ。

『待・・・・・・』

言葉と、銃声が重なる。『待て』と言いたかったのだろうか。だが、仮に言い切ったとしても、アオイに待つ理由などは無かった。

至近距離から放たれた弾丸は、装甲に大穴を開け炸裂し、コアの前部を壊滅させていた。おそらく、即死だろう。煙を立ち昇らせ、火花を散らすそれを一瞥すると、アオイは身を翻し、地上施設へと機体を走らせた。

こういう仕事をやっていれば、人を殺すことなど日常茶飯事だ。特に何の感情も抱かなかった。


アオイが入り口に辿り着いたと同時に、破壊されたコアに内蔵されていたジェネレータが大爆発を起こし、破片を四散させたが、それに振り返ることも無かった。

ただ透徹とした表情のまま、アオイは施設の中へと“天風”を滑り込ませる。


真紅の陽は既に、地平へとその身を委ねようとしていた。

 

 

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