ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 1. #.3 “STRANGER”
( ――
不法侵入者あり、直ちに排除せよ、不法侵入者あり、直ちに排除せよ、不法侵入者・・・)
「うるさいな・・・・・・」
アオイが小さくぼやく。施設に入って以来、ずっとこんな調子だ。
まぁ、文字通り不法侵入している身である以上、文句は言えないが。しかし『排除せよ』と言っているわりに今のところ何も出てきてもいなかった。
入ってすぐのところにあった、立坑を下りる為のエレベーターはさすがに起動してくれなかった。仕方無しに周囲の金網で塞がれた部分をロケット弾で破壊し、できた穴から飛び降り今の場所、すなわち立抗最深部に降り立っていた。
目の前にあるのはぶ厚い鋼鉄のゲート。幸いなことにまだロックはされていないようだった。しかし、先程から聞こえてくる耳障りな機械の駆動音
――
おそらくは防衛用のMT(マッスル・トレーサー)と呼ばれる機械兵器の類の存在を、レーダーに映る赤い点とその音が示していた。
それが、ゲートの向こう側に三機陣取り“侵入者”を待ち構えている。
アオイはリニアライフルの弾倉に残る弾の数を確認する。十四発
――
十分残っている。ガードメカ数機相手に途中で弾切れすることは無いだろう。
アオイは叩きつけるようにしてゲート横のパネルを操作する。重々しい音とともにゲートが開き、同時に無数の弾丸が送り込まれてきた。
最初に斉射があることは既に予想していたので、アオイは機を上昇させ、全弾を眼下に見送る。そしてターゲットを求め、ノロノロと這い出てきた蝸牛のような形をしたガードメカを上から狙い撃ちにする。
銃口から伸びる火線が真上からその脆弱な装甲を突き破り、続く弾の炸裂によって内部構造をばら撒き、機能を停止させる。瞬く間に二機のメカが弾丸により葬られた。
一般的にMTの戦闘能力や装甲は、ACのそれに比べれば遥かに劣る。特に今アオイが屠ったような小型・無人のものは数を揃え、質より量で押すのが定石だ。
一部にACに匹敵するか、それを超えるような高性能なものも存在するが、それはどちらかと言えば極稀なことだった。
無残に撃ち砕かれた残骸の間に“天風”は降り立つ。同時に、目の前で何故かまごついていた残る一機に銃弾をプレゼントする。
脚とおぼしき場所にそれを喰らったガードメカは、その反動で背中から倒れ込んだ。
「さてと・・・・・・先に進むか・・・・・・」
付近に敵がいないことを確認すると、通路内へと侵入し、道なりに進んでいく。
しかし突然の背後からの銃撃に機体が軽くよろめいた。ダメージはほとんど無かった。だが。
「っの・・・・・・!
往生際が悪いぞ!」
そう怒鳴りつつ機体を急旋回させるとライフルを構える。その先にあるのは、仰向けに倒れた、先程最後に倒したガードメカの上半身。そこに取り付けられたガトリング砲の銃口からは紫煙がたなびき、周囲には新たな薬莢が散乱していた。
どうやら仕留め損ねていたようだ。
リニアライフルのマズルから再び伸びる閃光は、正確に砲身の付け根を突き破り、今度こそその機能を完全に停止させる。束ねられた銃身が硬い床をバラバラになりながら転がり、やがて壁にぶつかると止まった。
「・・・・・・最初からしっかり狙うべきか・・・・・・・」
反省も込めてそう呟くと、再度機を反転させ、通路をブーストダッシュで駆け抜けていった。
両側を金網で囲まれた通路をマゼンタカラーの機体が疾駆する。曲がり角を越え、真っ直ぐな道にでる。前方に二機のガードメカ。
速度を緩めず右手のライフルを構え、二発だけ撃つ。一機はガトリングを破壊され、また一機は弾倉に着弾、誘爆して果てた。
武器を破壊されただけの方はまだふらふらと動き回っていたが、最早無害な代物だ。
無視して横を走り抜ける。先の反省もあって、狙いは今まで以上に正確だ。
“天風”に搭載されているFCS
―― Fire Control
System、火器管制装置には、通常あるべきロックオン機能が備わっていない。少々不便に思えるかもしれないが、余計なものをロックすることも無いし、ピンポイントを狙い撃つことができる。また、画面横に照準している場所を自動的に拡大表示する機能も備わっていた。
当然、ミサイル系の火器はサポートしていないが、慣れてしまえば精密射撃は非常にやりやすかった。
再び曲がり角
――
先刻からこの繰り返しだった。だが、アオイは曲がり角の手前で機体を軽くジャンプさせ、そして静止させる。
レーダーには無数の赤い点が刻まれていた。おそらくこの先に弱小メカどもがたむろしているのだろう。なにか重要なもの
――
ゲートでも守っているのかもしれない。
「どうするかな・・・・・・」
アオイは腕を組み、思案顔だ。
いくら弱小とはいえ、いきなり突撃すればこの狭い空間で十機はくだらないこの敵の数だ、当然こちらの被害も大きいだろう。それに、ちまちま潰していては弾薬も無駄になる。
「こいつで一掃してやるか・・・・・・」
アオイは機体の腹部、右ハンガースペース(搭乗者からみて右である)のハッチを開放する。同時にスライドして出てきた小型のランチャーの接続を解除し、装填されていたマイクログレネードを二個手に取り、再びハッチを閉ざす。そして機体を壁沿いに移動させ、角の向こうの様子を窺う。
機械音を響かせひしめき合うガードメカは、予想通りゲートの前に集中していた。固まりすぎてロクに身動きも取れないようだ。敵としては嫌な状態だろうが、アオイにとってはかなり好都合だった。
二つのグレネード弾の底を金網に叩きつけ、信管を作動させる。本来ランチャーが行うことも自分でやらなければならない。密に編まれた金網が、僅かに揺れた。
「行くか・・・・・・」
タイミングを見計らい機体を曲がり角から踊り出させ、同時に手に持ったグレネード弾を集団に向けて思い切り投擲する。集団の手前数メートルで跳ねたそれは、運よく彼らのど真中に飛び込んだ。敵の存在を確認したガードメカ達も果敢に装備されたガトリングやロケットを放つが、そのほとんどが味方を撃ち倒すのみに終わった。『敵の排除』及び『ゲートの防衛』という貧弱なプログラムしかされていない低性能なガードメカ達には、「状況判断」ということができなかったようだ。
連続する爆発に、施設が震える。閃光、そして爆炎の中から爆発に打ち砕かれ、吹き飛ばされた破片が飛び出し、床の上を滑った。
「馬鹿な奴等だな・・・・・・」
足元まで飛んできた装甲の一部を蹴りつつ呟く。残骸を踏み越え、再びゲートの正面に立った。
驚いたことに、あの爆発でもゲートはわずかに凹み、焦げ付いただけだった。だいぶ頑丈にできているらしい。
アオイは前回と同じようにパネルを操作する。しかし、聞こえてきたのは短い警告音と、無感情なコンピュータ・ボイスだけだった。
(
―― ゲートが動作しません
)
どうやら既にロックされてしまっていたようだ。アオイは軽く舌打ちすると、周囲を見回す。制御用の基幹装置や配線がないかと探しているのだ。
数秒後、再び舌打ちの音がコックピットに響いた。どうやら見当たらなかったようだ。
「えぇい、面倒くせぇ!」
そう叫ぶや否や、レーザーブレードを展開し、ゲートを十字に斬った。
高温の蒸気とともに鋼鉄の扉が溶解し、ボタボタと溶けた金属が垂れる。そのまま上下を切断し、厚い扉を床に倒す。まだ溶解した金属が間欠的に垂れる中、できた穴に機体を飛び込ませた。
高温の金属は運よく避けられたようだが、幸運はそう続かないもので、飛び込んだところを銃弾のシャワーに迎えられた。
見れば、二機の花びらのようなローターを回転させながら宙に浮かぶ敵の姿があった。これは以前にも見たことのあるメカだった。名称は“ファイア・フライ”、敵の真上を取り、マシンガンで攻撃する面倒な事この上ない奴だ。
「くそ、鬱陶しい・・・・・・」
叫ぶと高速でバックし、降り注ぐ弾をかわしつつ敵との間合いを取る。こうすることで、例の哀れなレイヴンに言いかけたことの通り、宙に浮かぶ敵を視界に捉えることができる。
リニアライフルの高速弾が敵の連射弾と擦れ違う。
四発発射された弾は“ファイア・フライ”のローター、そして本体を撃ち抜き、墜落、炎上させたが、無数に放たれたマシンガンの弾丸は、全て床を舐めるに終わった。
マシンガンの弾でささくれ立った床を一瞥、アオイは視線を右に向ける。視線の先には、深そうな斜坑と、それを下りる為のものであろうリフトとがあった。
おそらく、深度的にもここを下り切った高度に最終ゲート、すなわち“アンバー・クラウン”の入り口があるはずだ。
何の前触れもなく、アオイは斜坑へと機を投げ入れた。リフトを使って悠長に下りるよりもこの方が早いと判断したからだ。
斜坑の途中、天井には砲台がいくつか設置されていたが、その全てが敵を射程に捉える前に沈黙した。暗い底へと空弾倉を落とし、新しい弾倉を引っ張り出しセットする。そのままの動作で上昇してきた三機の“ファイア・フライ”を撃ち抜いた。せっかく暗い斜坑を苦労して昇ってきただろうそれらは、煙と炎を吹きつつ落下し、中途で爆発四散した。
そうこうしているうちに、ようやく底部が見えてきた。例によって軽くブースタを起動させ、静かに着地する。目の前には三度目の鋼鉄製ゲートがあった。
あまり期待はせずに、パネルを操作する。すると、今度は呆気ないほど簡単にゲートが開放された。
「ふぅ・・・・・・」
アオイは一つ息をつく。正直、扉切断はもうやりたくない、と思っていたところだった。
開いた扉の奥には、薄い青白い膜
――
おそらくバリアに囲まれた縦長の装置が四基あった。多分、あれが例の制御装置の類のものであろう。ということはやはりここが最深部か。
「バリアか・・・・・・破れるか?」
試しに一発ライフルを床に見える小さな装置に撃ち込む。すると、バリアの一部が欠損した。どうやら破壊は可能なようだ。
「一個一個やるのは面倒だな・・・・・・・」
そう言うなり、腰を落とし肩のグレネードランチャーを構える。この狭い空間で撃つのはどうかと思うが・・・・・・
くぐもった音とともに弾体が射出され、同時に後部から高温のガスが高速で噴出する。グレネードというよりは、無反動砲に近いか。
リニアライフルのそれと比べれば、小型とはいえ幾分大型の弾丸が青いバリアに突き刺さり大爆発を起こす。バリア自体にダメージを与えた上、埋め込まれた装置を根こそぎ破壊した。
凄まじい爆風と熱波がやっと収まる。部屋全体には灰色の煙が充満し、そこら中に焦げ跡が残り、所々が粉砕され破片となって散らばっていた。どうやら、バリアの内側にあったターゲットも同時に破壊できたようだ。ひしゃげた機械類からは煙が立ち上り、火花が飛び散っていた。
この惨劇を引き起こした本人はというと
――
射出後すぐに扉の横へ移動し、難を逃れていた。さすがに直撃はほぼ避けたとはいえ、多少のダメージは見られたが。しかし大事に至るようなことは無さそうだった。
「さて、これで最終ゲートが開くはずだな・・・・・・」
確認するように言うと自ら破壊した部屋へと入り、左手のゲートを見やる。先程もそうだったように、扉自体は無事なようだ。
ライフルの装弾数を今一度確認する。ここを出たところに“依頼主”がいるはずだ。どんな状態でいるかは分からないが、もしも罠だったら
――
即刻撃ち合いが始まることも十二分に考えられる。用心するに越したことはない。
残りは十五発と、弾倉が二個。ブレード等もあるから、万が一のことがあってもこれだけなら十分だろう。
意を決し、無言のままゲートを抉じ開ける。装置の破壊でロックは解除されたものの、間抜けなことに開閉装置は爆発で壊れてしまったようだった。まぁ、自業自得というやつだ。
徐々に開いていく扉の隙間からは、部屋に溜まっていた煙が流れ出ていった。
開かれた扉から窺えるのは、暗闇と、静寂。すでに時間は夜になっていた。
周囲を見つつ、施設の外へと出る。人影は見られない。どうしたものかと思案していると、不意に後ろから声をかけられた。
「・・・・・・思ったよりも、遅かったわね・・・・・・でも、ちゃんとここへ来てくれた・・・・・・」
耳に届く声は、詰まらん細工をしていなければ、女性のものだった。
その、澄んだ声に、アオイが振り向き
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