ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 2. #.1 “GRIP OF THE MYTHICAL”
「 ――
早速厄介な事を・・・・・・」
何ともいえない表情で呟くのはアオイ。その目は何やらごちゃごちゃとした機械の群れの中にある、一つのモニターに向けられていた。
そのメールが届いたのはほんの数十分前だった。彼がここ、“アイザック・シティ”の一角にある“ベッド”に戻って来てから、僅か半日ほどしか経っていない。おかげでようやく数時間前に床に就いたアオイは、それによっていきなり叩き起こされる羽目に陥った。
もう少しこっちのことも考えて欲しい・・・・・・そんな叶いそうにも無いことを考えつつ起き出すと、まるで有機体のように組まれた機械の山へと向かった。
「一体誰がこんな風にしろと言ったかね・・・・・・」
その頂を眺めつつ溜息混じりの呟きを漏らす。コンピュータ関連の事に対し彼は、知識はおろか興味すら持ち合わせていなかったため、システムの構築は全て情報屋(ハッカーとも言うかもしれない)のサイファー(やっている事からして偽名だろう)に任せていた。
そしてその結果がこれだった。構築者である彼は、一般的なシステムから防衛、迎撃まで完璧だ、と豪語していたが、当然アオイにその価値が見出せる訳でもなく、実際の使用に於いては、並みのコンピュータ程度の機能しか発揮していなかった。まさしく宝の持ち腐れだ。サイファー自身、アオイがそうである事ぐらいは知っていた筈だ。なのに何故わざわざこんな大掛かりなものを拵えたのか・・・・・・謎としか言いようが無い。
その超高性能でありながら、全機能の十パーセントも活用されていない悲劇のコンピュータに届けられた一通のメール。差出人は純禾だった。ある意味当然と言うべきか。
どうせいきなり何かやれというのだろう・・・・・・例え小さな事であっても、兎に角突っ込んでいきそうなやつだったからな・・・・・・でもってその被害をこうむるのが俺と言う訳か・・・・・・
何処か自嘲的な笑みを浮かべつつ、そんな事を思う。何故にそうなったのかはもう考えない事にした。
今までもどうも厄介な事に巻き込まれては損ばかりしてきたような気がするが・・・・・・またそんな事になるんじゃ無かろうな・・・・・・
機械の山の前に立ったとき、あまり良くない想像が一瞬胸中をよぎったが敢えて無視し、そのままメールの本文をモニターに表示させる。
数分後。
・・・・・・何をしろ、ということについては理解できた。だが、同時に疑問と突っ込みどころも多い。まぁ、それとこれは関係ないことだが。
何やら例の機関に捕らわれた技術者が環状回廊を経由して移送されるとのこと。目標はその人物の奪還・・・・・・いや、もともと俺達の側についていた訳じゃなかろうに、という思いは飲み込む。それはいいとして・・・・・・詰まるところ輸送車両の護衛部隊を撃破し、技術者の乗った車両
―― 三台いるやつの真ん中のらしい ――
一体何処で調べたのやら・・・・・・その車両、それ以外を破壊し保護しろということか。
面倒な事極まり無いな・・・地点は回廊の45度分岐点。分岐地点というだけあって、幾つもの道が交差し、地形も非常に複雑な場所だ。そんなところで敵部隊を討ちつつ、車両も追えというのか・・・・・・見逃す可能性も非常に高い。輸送車が何処を目指して進んでいるのかが分かればある程度方向の目星はつくが、間抜けなことにそれに関する情報は一切なかった。
アオイは大きく溜息をつく。今からこっちで情報を集めている時間も無い。ぶっつけ本番でいくしかないだろう。
それにしても、あいつは本当にわかって言っているのだろうか、と思わざるを得ない言葉があった。
曰く、時間も深刻で、最近はあの辺りも人通りや車両の往来も少ないので、行動が人目に付かず、少しはやりやすいだろう
――
と。
・・・・・・確かに人目に付きにくければ、行動の自由性は高まる。市街地でいきなりグレネードなんぞをぶっ放せばすぐさま住民等が異常を感じ、どこぞに通報され厄介な事になるだろうことは自明だ。それは認める。だが、それは逆に敵にもいえることであるということ。それは過剰な防衛戦力を投入したとしても怪しまれないという・・・・・・そもそもこの技術者を確保したとて、何か得があるのだろうか?確かにそれによって相手側の開発が遅れることは十分考えられるが・・・・・・
ぐだぐだ考えていても仕方が無い、とっとと行くとするか・・・・・・
最後に作戦終了後(必ずしも成功ではない、という所がなんとも・・・・・・)に彼女と会う場所を確認し、アオイは部屋を後にした。
マゼンタカラーに塗られた機体、“天風”の足元に座り込む、いや座り込んで寝ている筋骨逞しい大柄な男にアオイは目をやり、そしてそっちへ近づいていく。そして限界まで接近すると、彼の気持ち良さそうな寝息を聞きつつ、その額に膝を叩き込んだ。
そう力が込められていたわけではないが、彼の頭は体ごと後ろへ仰け反り、背にしていた機体の脚、その装甲板に打ちつけられ、いい音を奏でた。
呻きを漏らしつつ派手な目覚ましで文字通り叩き起こされた大男を平然と見据えつつ口を開く。
「そんなとこにいると轢き潰しちまうぞ・・・・・・さっさと退いてくれ・・・・・・というか・・・・・・・いたのか、お前。何時の間に・・・・・・」
「いたのか、はねえだろ。しかも何時の間に、とは・・・・・・深夜にいきなり呼び出したのは何処のどいつだよ、まったく・・・・・・ほら、いわれた通り外装の補修と背部装備、付けといたぞ。あと弾薬の補充。しかし両方とも一気に棄ててくるとは・・・・・・」
蹴られたことに対してはあまり頓着していないのか、全く触れなかった。しかしそのまま愚痴とも責め台詞ともつかないことを永遠と喋り出しそうだったので、アオイが先手を打つ。
「だいぶガタがきてたんだ、丁度いいだろ、お前もバラして廃棄処分する手間が省けて。・・・・・・アドヴァント、グレネードの型が変わっているが・・・・・・何か変えたのか?」
アドヴァントと呼ばれた武器商人はいそいそとその辺に散らかっていた道具を片付けつつ口を開く。このまま放置してACに蹂躙されては堪らない、とでも思ったのだろう。
「緩衝装置をいじっただけだ。性能的には前のと変わらん。弾の種類も装備弾数も同じだ。ただ発射反動は二十パーセントぐらい減っている。例えばの話だが、空中で撃ったとしても反動で腰部ジョイントがイカレて制御不能、ということは無い筈だ。まぁ、大きく体勢が崩れることには変わりないがな」
言われて、グレネードランチャーへ目をやる。確かに後部の放出口と、砲身部のスライド機構が変更されているようだった。反動二割減は大きい。まぁ、彼の言い草が本当ならばの話だが。
「つまり一応空中でも撃てるってことだな・・・・・・分かった。それじゃあ俺は行くからな。金はまた後で払う、どうせまた何か必要になるだろうからな」
二メートル近い身長のアドヴァントを一瞬見上げ、それからコックピットに上がるための階段へと向かう。割と長身なアオイでさえ見上げるほどの体躯の持ち主は、それを聞くとどうも腑に落ちない顔をしていたが(おそらく空中発射のことだろう)、一言じゃぁな、と言うとガレージの外へ通じる階段を上っていった。
ガレージを地下に作る理由はちゃんとある。別に仰々しく群集の目の前に陳列しておく必要もないから、というのも一つだが、重要なのは「隠す」という効果だ。このベッド自体、“アイザック・シティ”のスラムの、それも外れのほうに位置している。前にもいったように彼には、一般的な水準で見れば、かなり、敵が多かった。またそれが一つ、増えるような気がしてならないが。
「さて、行くとするか、“アンバー・クラウン”。しかし二日も連続で行くことになるとはな・・・・・・」
狭い空間の中で苦笑しつつ、機体を起動させる。コンピュータの聞き飽きた状態解説を適当に流し、機体を百八十度旋回させる。先程までは背後にあった扉が今は眼前にせまる。アオイはその扉の横に取り付けられたパネルのキーを幾つか打つ。扉が、重々しい音と共に中央から左右に開く。その先、漆黒の闇の中には、上方向へと傾斜する通路が続いていた。
純禾が言っていたような「廃棄された通路」は、ここ“アイザック・シティ”にも存在していた。その一つをアオイは改造し、人目に付かず、地上と地下を行き来することができる道として利用していた。改造、といっても内部を補修し、ガレージを地下の壁面にある通路と隣接するように作っただけなのだが。もともとこの通路自体は地下に埋もれていたのだが、彼がかなり以前、テロ組織に対して“アイザック・シティ”の防衛戦を行っていた時に偶然見つけたものだった。
その道を、ブースタを噴射し、一気に駆け上がっていく。すでに遥か下方となった扉は、彼の機体が通り抜けたのち、自動的に再たび閉ざされていた。
通路を駆け上がること数十秒、斜面が終わり、平坦な場所に出る。その数メートル奥の天井には、AC一機が通れる程のハッチがあった。さらに前進し、それを開けると同時に地上へ飛び出す。着地すると、巧妙に土くれや石でカモフラージュされたハッチを元に戻した。これで、ほとんど周囲と見分けはつかない。アオイはすぐ傍にある横長の褐色の石をその目印としていた。
時刻は、もうすぐ空が朱に染まり始める頃。今度は特に寄る所も無く、侵入路も教えられているので、夜十二時前には余裕で目的地に到達できるだろう。
アオイは無言のまま機をその方角に向けると、再度ブースタを噴射、青い燐光を撒きつつ駆けていった。
闇の中、緑がかった天然の石柱を背に、佇む機体が一機。僅かな光源に照らされ認められるのは、流線型の外郭と、その特徴的な、いささか派手とも言える機体色。
「静かだな・・・・・・早すぎたか?」
石柱にその身を預けていた機体を起こし、数十メートル離れた広い空間、そしてそこに敷かれている道路網を見やる。
環状回廊45度分岐点。
既に到着してから数十分が経過していた。予定では十二時過ぎにはここを車両が通過する筈だった。が、すでに時刻は十二時半を回ろうとしていた。
ガセか、それとも本格的に罠か
――
そんな思いが渦巻き始めたとき、機体のセンサーが“動き”を捉えた。
「来たな・・・・・・」
呟き、そっと柱の陰から抜け出し、先に見付けておいた、この辺りの大部分を見て取ることができる高台へと上がった。最初からここにいても良かったのだが、遠距離からだと角度の関係上、こちらが先に発見される危険もあった。
頭部バイザーブロック・モニタの光量を機能が働く限界まで絞り、高台から上半身を出す。夜間という事も相まって多少ノイズが酷いが、補正と他のセンサー情報を組み合わせれば十分敵数、敵種を判断できるレベルだ。
「三機連なっているのが輸送車、あとのカタマリは・・・・・・くそ、“オーガー”か、よりによって・・・・・・」
一つ悪態をつくと、一気に高台を飛び降り、下方にあった浅い、水溜りの近くへ着地する。ここ、環状回廊45度分岐点は天然の地形を利用し、そこに道を拓いたような構造になっている。故に非常に地形が複雑であり、その上分岐点である。先述のように道も多数入り組んでいる。
敵の種類を考慮した上で、一気にカタをつける思いを固めたのだろう、浅瀬の水を蹴りつつ向かい側の石壁まで走り込み、壁に背をつけ背後のグレネードを用意する。
――
真ん中の道を車両が来る。その周囲、三方面にオーガーの小部隊。右から潰すか・・・・・・
機体を旋回させつつ斜面を滑り降りる。バイザーの光量が再び拡大され、微かな起動音とともに蒼い光がそこに宿った。そして、その頭部センサーが斜面上に立つ敵影を捉える。
まるでハンマーで叩き潰されたかの様に背の低い、ずんぐりした青いボディを持つ機体“オーガー”、その赤いモノアイが不気味に輝く無骨な頭部が、角張った胴体の上部ごと砕け、後方へと吹き飛んでいく。
直後、轟音が地下に響き、傍にいた二機は同時に二つの事に気付かされる。
仲間が倒されたことを、そして敵の存在を。
斜面を下り終えたアオイはグレネードを通常位置に戻し、右手のライフルを構える。確かに衝撃は以前より緩和されている。地に脚が着いていたとはいえ、不安定な姿勢だ。それでも機体に影響はほとんど無かった。
“オーガー”が有する武器は基本的に二つ。そのうち一つは今現在、その場に残る二機が盛んに撃ってきている、84mm無反動砲。こちらの方は着弾時の衝撃こそ大きいが、その他の面では至って平凡、ほとんど問題ない代物であることは、僅かに機体の立ち位置をずらすのみでその全てを回避しているアオイを見れば明らかだろう。
だが問題なのはもう一つの武器の方だ。“オーガー”は左腕、“ペレット”と呼ばれる近接攻撃用の強力な爆薬を内蔵装備している。これは威力もさることながら、その反動が凄まじい。仮にACであっても、軽い機体ならば数メートルは吹き飛ばす。
だが
――
いくら強力といっても、流石に接近しなければ何の意味も成さない。接近される前に仕留める、それが定石だ。
次々と飛来するロケット弾をかわしつつ、狙いを定める。やはり敵も弾幕を張りつつ接近しようとしているようだ。ジリジリとこちらに近づいてくる。だが、この状況では完全に彼らは的でしかなかった。間抜けな事に狭い道路脇の道を二機はほぼ並んだ状態で行軍してきている。あれではろくに回避も出来まい。
無言のまま弾を三発放つ。まずは右からだ。予想通り、ろくな回避行動も取れなかった“オーガー”の膝関節を一発目が見事に撃ち抜き、動きの鈍った機体を続けて飛来する二発が襲う。胸部、そして頭部を破壊された重戦闘用MTは重々しい音と共に大地に伏した。
あっという間に僚機を失いうろたえる残党も、数秒後には同じく地に倒れていた。仰向けに倒れるその胸部、弾丸を二発連続で喰らったそこは既に衝撃と爆発で原型を失っていた。
「あと六機か・・・・・・どうにも面倒だな。そもそも・・・・・・何の理由でわざわざここを選んだのか・・・・・・」
やはり腑に落ちないところではあったが、愚痴が出そうになるのを抑え傍らの道路上へと上がった。既に他の敵機にもこちらの存在は知られているだろう。兎に角、急ぐべきだ。全機に結集されるのも非常に厄介だが、それ以前に輸送車を見失っては元も子も無い。
視線の先にあるのは輸送車“トーラス”の列、そしてその奥から前進してくる“オーガー”の群れ。運の悪いことに残りの機体は既に点呼を終えたようだった。
アオイは軽く歯噛みするが、仕方が無い。前後の輸送車二両を破壊、ターゲットを足止めしている間にカタマリを潰すしか無いだろう。その際には、おそらく接近戦も辞せない。
「もっとスマートにいきたいものだが・・・・・・文句言ってもしょうがないか。まずは“トーラス”だ」
右前方に向かって機体を走らせつつ、路上を走っていく車両を狙う。あの車両間の距離ならば中央の車両に被害は出ない
――
そう踏んだアオイは、一切の躊躇無くトリガーを引き絞った。
最後尾の車両が走る地面が、風切り音と共に突然破裂する。衝撃で路面から引き剥がされ宙に浮く“トーラス”。一瞬の停滞、制御を失ったその車体、その中央部を、先程とは比較にならないほど強大な衝撃が、容赦なく襲った。
強化アルミニウムの車体はいとも簡単に引き千切られ、半ば鉄屑と化し、道路横へと落下していった。路面上に残るのものは弾丸によって砕かれた地面の生々しい傷跡と、僅かに残る金属片のみだった。
それを一顧だにせず、さらに先頭を狙う。勿論、機体は大きく弧を描くように移動を続けたままだ。
急ぐ必要があった。“オーガー”の集団との距離はかなり詰まってきていた。間に道路を一本挟んでいるので今のところ攻撃は受けずに済んでいたが、それも時間の問題だろう。足元の水溜り、跳ね上げたその水が飛沫となり、機体に付着した。
既に、蓄えられたエネルギーも底を尽きかけていた。ブースタ自体も過使用によって悲鳴を上げている。アオイは一瞬視線を横へと向かわせる。そして意を決したかのように軽く頷くと、機体を飛び上がらせる。眼下には、“オーガー”の群れ。だが、まだそちらを見ようとはしない。
後方の一両が撃破されてもなお、彼らは只管に前進を続けていた。この高さからならば、丁度先頭を狙える。上昇が終わりに近づき、最高点で静止する瞬間、放たれた弾丸が空気を切り裂き、一直線に突き進んでいった。
先頭車両が突然、まるで何かに乗り上げたかのように前輪を宙に浮かした。だが当然、でかい石ころに乗り上げたわけではない。一瞬にして滅茶苦茶に破壊された車両後部がそれを証明している。弾丸を受け、飛び上がった車体はサーフィンをするかのように宙を滑り、上手い事前方の道路上に派手なダイブをかまして炎上した。
どこか満足げに口の端を吊り上げると、すぐに機体を下で歓迎の準備を整えた“オーガー”どもの方へと向ける。目標の車両にはもう目もくれない。必ず停まる
――
そう信ずるしか無いからだ。機体は既に降下し始めていたし、“オーガー”も無反動砲でもって歓迎のセレモニィを開始していた。
飛び交う砲弾の一発が左肩に当たり、外部装甲を砕く。反動で機体が傾くが、気にせずこちらもロケット砲を準備し、下方へ向かって連射する。
ロクに狙いも付けていないように見えたが、重い砲弾は必死の迎撃を行う二機を強襲する。頭頂から垂直に突き刺さったそれは一瞬にして頭部を完全に破壊し、なおも勢いを止めず胸部まで侵攻し、そこで爆発を起こした。四散する“オーガー”の青い装甲片、その間に割って入るのはマゼンタカラーの機体。
敢えて着地にブースタを使用せず、真下にあった水溜りへと、盛大に水しぶきを上げて飛び込んだ。丁度“オーガー”達の中央だった。白く割れるしぶきをまともに浴び、視界を一瞬奪われる。帳の水が流れ落ちた時、既に二機が、一体は胴体を貫かれ、また一体は左腕ごと腹部を切り裂かれ、共にその場へ倒れ込み二度、三度目の水しぶきを上げた。
――
残り二機。いけるか。
発振口を遮蔽しつつ残る敵へと機体を旋回させると、そこには凄まじい勢いで突き出される“オーガー”の左腕、つまりは“ペレット”が待ち構えていた。
「うぉ!?」
この距離、この勢いでまともにそれを喰らったら、どうなるかは最早言うまでも無い。コアごと完全に叩き潰され、見事な焼きペーストと化す事うけあいだ。彼にそんな死に方をする気はさらさらなかったし、第一虚し過ぎる。
超反応とも言える速度で機体を急速後退させると同時に、敵との間の空間にライフルの銃口を捻じ込み、そのまま撃つ。着弾の衝撃に動きの詰まった“オーガー”の拳、そこから生まれる爆発は、コアの先端部分を焼くに止まった。それでもかなりの反動が機体を襲い、一瞬宙に浮きつつ五メートルほど跳ね飛ばされる。
「くそ、とっとと片付けないとな・・・・・・」
呟き、衝撃にふらつく機体の体勢を立て直すと、同じく着弾の衝撃にいまだ苦しむ“オーガー”の胸部へと、二度目の洗礼を与える。身を翻しながら、背後から接近を試みていた最後の一機の左腕を斬り飛ばすと、返す刃を腹部に突き入れ、そのまま頭部までを一気に斬り裂く。割れたモノアイ・レンズを散らしながら、最後の一機も周囲の仲間と違わず大地にその身を横たえた。
「
――
終わったな。あとは技術者とやらの身柄を確保するだけか・・・・・・」
一通り周囲を確認するが、他に敵勢力の存在は無いようだった。一応安堵した風に息を吐くと、まだ火の手が見える、輸送車を足止めした地点へと向かう。道は完全に塞いだ上、付近に分かれ道も無い場所だった。おまけに周囲は崖っぷちのようになっている。ACから見ればそこまで切り立っているわけでは無いが、人間が生身でそこを下ろうとするのは、投身自殺にも等しい。ましてそれほど時間も経っていない。おそらく、まだその場に居る筈だ。
炎に揺らめく路上、そこに目標の輸送車は健在だった。それにアオイは一息つくことが
―― できなかった。輸送車の横に佇む一つの影 ――
ACの存在に。
それはこちらに気付いたのか、それとも待っていたのか、兎も角こちらへ向き直った。
鈍く光る銀に塗られた機体、非常に特徴的なフォルムをしている。鋭角な頭部とそこから伸びるブレードアンテナ、棘が突き出したような形状のコア。そしてその大きさが異様な威圧感を放つ肩、反比例するかのように細い腕。脚も、二脚とも逆関節とも取れるような特異な形状をしていた。
だが、さらに異彩を放つのがその装備だ。左腕の盾のような物体、先端部に発振口が見え隠れする事から、レーザーブレードの類のものと推測されるが
――
他にも何か隠し持っているような気がしてならない。右腕に持つのは、機体と同じく銀に塗られたライフル。形状から、レーザーライフルと思われたが、その下部に取り付けられた黒い塊がまた、異質な存在感を醸し出す。大径の銃口、リボルバーのような弾倉。何なのか判別は付かないが、注意を払うに越したことは無いだろう。
実際、その機体はこちらを向いただけで今のところなんら敵対行動は起こしていなかった。だからといって安心はできない。敵側の増援という可能性も十二分にあり得た。
『
―― 御苦労だったな、レイヴン。だが ――
こんなモノに、意味は無い』
突然耳に飛び込む冷徹な声。アオイは眉を顰めるも、その言葉の意味を判別する以前に相手は次の行動を起こしていた。
その左腕に付けられた盾を、足下に停まる車両へと、突きつける。同時にその付きつけられた先端部から青い、冷たい光が洩れ、下の道路ごとその車体を刺し貫いた。一瞬宙に浮いた機体、だが光刃の束縛から逃れると路面に激しく叩き付けられ、バウンドし崖下へと落下し、その底部で燃え上がった。
その行為を、驚愕をもって見守るしかなかった。奴は、先に交戦していた敵の仲間では無いのか。しかし、その疑問が膨れ上がる前に、眼前の男が言った言葉が脳裏に浮かぶ。
――
こんなモノに意味は無い ――
確かにそう、言った。だとすると、これは・・・・・・
『お前ももう、気付いているんじゃ無いのか。わざわざ詰まらん芝居まで打って解らせようと云うのに・・・・・・こんなモノ、甚だ面倒な事に他ならんのにな』
その特徴的な頭部を後ろへ傾け、何処か尊大な態度で言い放つ。しかし、そんな行動を示しても、笑い者にはならないような、言い知れぬ威圧が身を貫いていた。
「罠だ、と
――
そういう事か。で、結局何が言いたい?」
冷や汗が垂れるも無視し、平静を何とか装い相手に問う。彼ですら、そうなるほどの威圧があった。気の弱い者であれば、その場にへたり込み、動けなくなりそうな程の。
『ふん、一応解ってはいるようだな・・・・・・何が言いたい、か。簡単な事だ。とっとと手を引け』
「警告か。御苦労な事だな・・・・・・断る、と言ったらどうする?」
敢えて挑戦的に言う。奴が言っているのはウェンズデイ機関との事だろう。だが、一体何処から知られたのか
――
適当に撒かれた餌を純禾が拾ってしまったか、それとも以前から目を付けられていたか。どちらも可能性は十分あった。アオイ自身、自分が他の、“普通な”レイヴンよりも危険視される確立が高い事は重々承知していた。
『断る、か・・・・・・面白い事を言う。貴様が何をどうした所で、それこそ逆立ちしたとしても、このスティンガーに勝てる訳が無い。そこらに骨を埋めるのがオチだ』
やはり傲然と言い放つ。果たして彼
――
スティンガーと名乗る男の腕がどれほどのものかを推測する手立ては無い。だが、彼の自信のほど、そしてあの威圧が、並々ならぬ腕を持つことを証明しているかのようだった。
どうすべきか、珍しく考えあぐねていると彼の方から再び口を開いた。
『別段、貴様がどうしようと俺の知ったことではない。ただ、関わり続けると言うならば、いずれ俺が貴様を始末する事になるだけだ。面白くも無い戦いに無駄な時間など割きたくは無い。いいか、俺は面倒が嫌いなんだ』
どうも面倒が嫌いなようだ。だが、それはさしたる問題ではない。要は、このまま機関に関われば奴が刺客として俺を始末すると、そういうことだろう。
「やめるわけにもいかないんでな。それにだ、本当に面白くも無い戦いになるだろうか」
だいぶ心に余裕も戻ってきた。挑戦的な笑みを浮かべつつ、言葉を返す。
『
――
つくづく面倒な奴だな。勝手にするがいい。そして自分の選択にせいぜい後悔することだな』
多分に苛立ちを含んだ声で応じつつ、銀の機体を飛び上がらせる。そしてそのまま機を反転させると、漆黒の闇へと飛び去っていく。
飛び上がった時点で何をしようとしているのかは理解できた。だが、高速でリニアライフルを向けるも、その時には既に射程外に逃れられていた。思わず感嘆さえ漏らすようなスピードだった。
しかしながら、その速さが逃げ足だけに限ったものではないという事は、その場に居合わせていれば誰にでも分かる。実際のところ、あれほどの威圧を見せ付けられ、今の状況で戦ったとして、勝てるかどうかは微妙だった。むしろ、彼の言葉通り環状回廊に骨を埋めることとなった可能性の方が高いように思われた。
「行ってしまったか・・・・・・さて、どうすべきか・・・・・・」
様々な感情が入り混じった表情を見せつつ独り呟く。これから純禾と落ち合う地点へ向かうべきなのだろうが、せめて目標の残骸でも持っていった方がいいのだろうか。そう思い未だくすぶる鉄屑の在り処へ向かい掛けたが、途中で思いとどまり止めた。
そんな事をしたところであてつけにすらならないし、そもそも意味がない。
無数の機体、車両の残骸が横たわる中、一つの明かりも無い闇空へと頭を向ける。数秒の後、肩を落としつつまた一つ溜息を残すと、その場を離れた。
しぶきを跳ね上げ疾走していく機体に、やがて闇が被さる。それは何かを暗示するような、ひどく濃い闇だった
――
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