ARMORED CORE FAN

アーマード・コアファン

ホーム  > 小説ギャラリー > Artificial Crisis  > 2. #.3 “BLITZ BLUE”

「わらわらと蚊みたいに湧き出しやがって・・・・・・」

施設奥から飛び出す“シミター”の群れはさながら池の水から一斉に羽化したボウフラのようであった。悪態をつきつつもアオイは機体を一旦後退させる。群れの中から、十機の“シミター”がこちらへ向かって急降下してくる。耳障りな風切り音を後方に残し、飛来するその背中のポッドから、一気にミサイルが射出される。各機六発、都合六十発の誘導弾が視界を覆いながら迫る。

「なかなか鬱陶しいことを・・・・・・だが」

後退していた機体に急制動をかけると、無数のミサイルに対して正面から向き合う。その距離が詰まり、次の瞬間“天風”のコア、その両サイドから青い光弾が撃ち出された。四発の光球は緩い弧を宙に描き、その軌跡を残しつつ既に数十メートルにまで迫ったミサイル群に喰らいつく。そしてそれと接触した光弾は、青い火球を花開かせ、周囲のミサイルをも巻き込み、破砕した。コアに搭載されたミサイル迎撃装置がその能力を遺憾なく発揮した瞬間だった。
次々と開く火球に中央部を走っていたミサイルは完全に姿を消し、僅かに数発が横手を通っていく。最初の火球が開いた直後にダッシュを開始していたアオイは、その時には既になおこちらへと飛来する“シミター”を、刃の射程に捉えていた。

ミサイルの残党は、あるものは水柱を上げ、またあるものは立ち並ぶ鉄塔に突き刺さり炎を上げた。それを背景に、アオイは迷い無く宙の敵に斬りかかる。僅かに狼狽を見せる“シミター”は方向を転換することもできず、また搭載された25mmのチェインガンを撃とうとするも間に合わず、甘んじて刃の洗礼をその身に受ける。

空を斬り突き進む刃が正面の一機を一瞬にして斬り裂き、次の獲物を求めて機体を突き動かす。左手を飛ぶ一気に機体が急接近し、擦るようにして斬り飛ばし、続けてもう一機の頭部を掠め取り、その熱で内部機構を焼く。さらに機体は前進、飛び退ろうとする二機を纏めて串刺しとした。そして着地を待たずして振り返り、離脱しようと飛び急ぐ五機を捉える。翻る右手から断続的に五発の弾丸が飛び出し、正確にその頭部を、背中を突き破り胸部を破壊する。それらは火を噴きつつ高度を下げ、やはり海中に没した。

わずか数十秒の内に十機の“シミター”が沈んだが、未だ余りある機数が空には存在していた。

「くそ・・・・・・純禾!どうする!?」

『もう仕方が無いわ・・・・・・兎に角、一機でも敵を減らして・・・・・・この場を切り抜けるのが最優先よ』

新手の“不知火”と斬り結びつつ応える純禾。ころころと変わる作戦内容だが、この状況ではどうしようもないだろう。まさしく周囲は敵ばかり、四面楚歌という状態だった。

“陽炎”に酷似したフォルムを持つ重装甲機体“不知火”は高出力のレーザーライフルを持つ。が、既にそれは斬り裂かれたのかその手の中にはない。残ったブレードで果敢に戦うも、そこはやはり技量の差と言うべきか、斬撃を軽くいなされ逆に胴を断ち斬られて倒れ込む。

それを横目で確認していると、肩幅の広い“シミター”といった感じである“スーパーシミター”がチェインガンを乱射しつつ突っ込んでくる。周囲の海面に弾丸が着弾し、次々と水面を弾けさせた。数発が機体に命中し、装甲を削りとる。

「蚊トンボの親玉か・・・・・・来い」

そう言い放つと無数の弾丸に身を晒しつつグレネードランチャーを構える。そして逆落としに突っ込んでくるシミターに向けて一発、砲弾を撃ち込んだ。
寸前で危機を察知して方向を転じた“スーパーシミター”の横腹にそれは命中し、美しいとは言い難い花火を宙に開かせる。既に機能を停止した機体の、粉砕されたパーツ片を焼き、溶かしつつ炎の塊は宙を滑り近隣の基地施設へとダイブし、基地もろとも爆発して果てた。

それを見送り右に旋回すると、そこには今まさに着水し、攻撃態勢に移ろうとする“スーパーシミター”の姿があった。このタイミングでは撃墜するには間に合わない。

「・・・・・・くっ!」

旋回途中の機体を無理矢理ジャンプさせ回避行動を取るが、その時には空気を震わす音とともに太い、薄紫の塊が放たれていた。大気を焼きつつ前進する紫電は丁度“天風”が宙に跳んだ直後の海面に突き刺さり、ドーム状の爆風を発生させる。エネルギーの嵐と爆風とに脚をとられた機体は空中で一瞬硬直し、それと同時に多方向からの衝撃による強烈な負荷がパイロットをも襲った。

「くぁっ・・・・・・」

揺さぶられる意識に、思わず声が出る。だが、敵は既に次の行動に移っていた。着地体勢を解除すると宙にふわりと浮き上がり、猛然と空中に縫い止められ、落下しかけている“天風”へと向かう。その機首に配備された銃口が今まさに火を吹かんとするその時 ―― ほとんど反射に近い行動だっただろう、リニアライフルがそちらへと向けられ、二本の軌跡が後に残る。縦に並んだ弾丸はまずチェインガンを基部ごと吹き飛ばし、次いで頭部ユニットを完全に消し飛ばした。
制御を失った機体は先程一機が突っ込んだ場所にまたも突入していったが、今度はもう道連れに破壊できるものは残っていなかった。

不安定ながらも着地し、息を整える。機体の損傷自体は行動に支障をきたすほどではなかった。自身の体も特に問題は無さそうだった。

「ふぅ・・・・・・にしてもしつこいな・・・・・・まだ来やがるのか・・・・・・」

三機の“陽炎”が向かってくるのを確認し、迎撃の準備をする。ライフルの弾倉を落とし、ハンガーから引き抜いた一本を新たに差し込む。そして銃口を向けるが ―― その機体が何かに弾かれる。恐らく質量の大きい物体の直撃を食らったのだろう、一機が吹き飛び付近の鉄塔に叩きつけられて崩れ落ちる。残りの二体も、突如現れた弾丸のシャワーに全身を洗われ、爆発四散した。

「何だ・・・・・・?」

弾丸が飛来したとおぼしき方向へ目をやると、重厚なフォルムをした機体が、三機立ち並んでいた。両肩には盾のような装甲版が付き、右手にはそれぞれ大口径のランチャー、マシンガン、そして見たことのない武器が握られていた。さらにその左腕が持つ盾 ―― これが異様だった。それが盾であることは形状から見て確実だ。しかしその先端から生えた槍 ―― としかいえない物体が何なのかがわからない。接近戦用の兵器であることは明らかだが、その性能は当然のことながら未知数だ。

「純禾、あれは何だ?」

『わからない ―― けれど恐らくはクローム製のAC・・・・・・多分、クローム側がこの基地に強襲をかけてきたのよ』

「クロームか・・・・・・タイミングが良すぎるんじゃないか?」

クロームがこの強襲を当初から計画していたのか、それともこの騒動を察知し、利用して一気に攻め込もうとしたのかはわからない。ただ事実なのは ―― 事態がより厄介な方向へと進んでいるということだった。クロームの軍勢は当然この基地を占拠したムラクモ側を攻撃するだろう。それはいい。むしろ歓迎できることだ。しかし、この基地自体をも破壊しようとしている自分達の行為を、黙って見ている筈がない。まとめて排除にかかってくることだろう。

考えているうちに、未確認のACは六機にその数を増やし、空には十数機の戦闘ヘリ“レプラコーン”が飛び回り、“シミター”と火線を交え始めた。性能的には当然“シミター”の方が上であろうが、“レプラコーン”に乗るパイロットの技量が“シミター”のAIに勝っているのか、絶対的劣勢ではないようだった。とりあえず空の軍勢は無視しておけそうだった。

「問題は地べたの奴らか・・・・・・」

六機のうち三機は施設へと大回りに侵攻していき、途中出会う“陽炎”や“不知火”、“狭霧”を蹴散らしていく。残った三機は明らかに自分を狙っているようだった。後方から迫る“狭霧”に搭載されたミサイルの流れ弾をかわすと、どれから倒すべきかと思案する。
まず、あの謎の武器を持った機体に背を向けるのは危険と判断する。実際どの機を死角に置くのも、危険には変わりないだろうが、どうにせよ、三機全てを視界に納めて戦うのは難しいだろう。中央、その未知の武器を携える機に視線を向ける。相手もそれに反応してか、赤い単眼を煌かせながら突進してくる。

その、右手のランチャーから唐突に何物かが撃ち出される。速い ―― それが単純な感想だった。空を切り迫るそれの速度は、高速ライフルに匹敵するか、あるいはそれ以上のものであった。距離がもともと詰まっていたことと、一瞬の驚きの為に回避することができず、コアの左側に着弾する。途端、凄まじいまでの衝撃が機体を襲い、制御を奪われる。それも、一度だけではなく連続して。ようやく衝撃の襲来は治まるも、機体は未だ硬直を続けたままだった。足下に落ちる円盤状の物体、それがこの硬直を引き起こしたもの ―― それを思う間も無く、着実に接近してきていた他機の無骨な大型ランチャー、恐らくはバズーカの類が向けられる。

「くぉ・・・・・・どうする・・・・・・?」

通常であれば全く問題にならない低速の弾体であっても、今この瞬間は脅威であった。何しろ、身動きがほとんど取れないのだから。それほどまでにあの円盤の衝撃は強大であった。
野太い音と共にランチャーから大型弾が放たれ、銃口から白煙が僅かに昇る。牙を剥き接近するそれにこの状態で対処する方法は一つしかなかった。それはかなりの危険を伴うものだった。

コア下部左のハッチを開放し、マイクログレネードを用意し、間髪入れずに全弾、合計六発を狙いもつけず、発射する。正確に言えば、既に狙いをつけている時間の余裕もなかったのだ。束縛から解き放たれた小型弾が空間を走り、その内一発が向かってくる大型弾と正面から激突する。その時、機体との距離は十メートルと離れていなかった。残りの五発はそれぞれの方向へと飛び、自壊する。
閃光が走り、二つの弾丸がその内部に秘めたパワーを一気に曝け出す。爆発の焔熱は、当然至近距離にあった自機にも及ぶ。

「・・・・・・っ!」

衝撃による硬直からは脱していた機体を、間に合わないのは承知の上でバックさせる。案の定爆発の衝撃は機を襲い、その力によって数メートル吹き飛ばされる。爆炎を薙ぎ払い、見ると、腹部は燦々たる状態だった。表面装甲はめくれ上がり、第二装甲を露出させ、それすらも削っている。左ハンガースペース自体もほぼ壊滅していた。奇跡的にも、右側には被害は及んでいないようだった。だが、もしあの大型弾がまともにここを直撃していたら、この程度では済まなかった筈だ。恐らく内部のグレネードも全弾がその場で誘爆していただろう。それを思えばまだ幸運だったということか。

「まだ来るかっ!」

当然のことであるが、大型ランチャーを持った機体は爆発の余韻を掻い潜り迫る。その左腕、あの槍が不意に大きく後方へ引かれる。それに、凄まじいまでの殺気を感じたアオイは機を右へと滑らす。その横を、左腕がブーストの推進力とそれ自体が生み出す勢いに乗り、貫く。めくれ上がった装甲材がそれに巻き込まれ、後方へと消し飛んでいった。あれをまともに受けたら ―― その想像から生じた悪寒に、冷や汗が流れ落ちる。見事な風穴がそこに形成されるのは確実なようにも思えた。

「厄介なもの、持ってやがるな・・・・・」

横手から飛んできたマシンガンの弾をバックで回避し、手の甲で流れた汗を拭きつつ呟く。その時、純禾からの通信が入る。

『何か大変なことになっているようだけど ―― 大丈夫?』

「あぁ、何とかな・・・・・・」

実際大丈夫ではないかもしれないが、そう答えるよりない。向こうも向こうで戦闘状態にあるだろう、こっちの事は独力で解決するしかない。

『こっちは、さっきまでの敵と砲台を相手にしているわ。気を付けて、基地の防衛機構が本格的に稼動し始めたようだから』

「今更って感じもするが・・・・・・わかった。注意をしておく」

彼女の様子を窺っている余裕はなかった。先程の機体が再び向かってきていた。今度は冷静に対処する準備があった。まずもっとも厄介な代物 ―― 例の超高反動兵器を握るその腕を、狙い撃つ。あれにやられては、また同じ事の繰り返しだ。それに今度はもうグレネードも残っていない。弾はしっかりと手の付け根を撃ち破り、ランチャーはそれを握る手を付けたまま宙を一回転し、水面下に落ち込んだ。

その時、後方に再びあの野太い発射音を聞いた。それに敏感に反応し、機体をジャンプさせ正面の一機を飛び越える。手を失い、一瞬戸惑うように動きを止めたその機に大型弾がせまり、胸部に炸裂する。ガトリングのような形状をした、三砲身の恐らくは迎撃装置と思しき物体をその背部の装甲板ごと蹴散らし、胸部をまさしく蹂躙する。当然その奥のコックピットも破壊されたのだろう、機体はゆっくりと倒れる。その向こうに臨む一機は、仲間を打ち倒したことを気にも留めた風もなく、もう一機と合流すると突進してくる。
非情ではあったが、戦場ではその方が賢い選択ではあるかもしれない。

「仲間を撃っても気にもしない、か・・・・・・まぁいい、かかってくるのであれば倒すまでだ」

二機は逃げ道を塞ぐかのように絶妙な間隔で並び、あの槍を構え、猛進する。それに臆せず対峙すると、左の一機、マシンガンを構えた機体の胸に一発撃ち込み、動きを鈍らす。流石に重装甲な外見通り、一発で装甲を破ることはできなかったが、それでも僅かによろめく。さらに二発を撃ち、完全に到来のタイミングを崩しつつこちらからも接近する。右の一機も状況の変化などお構いなく、必殺の一撃を打ち込もうと突撃を続ける。

インパクトの瞬間機体を無理矢理浮かせつつ左にずらし、槍の脅威を避ける。飛び出しそうになる機体を留め、慣性に揺さぶられる意識を繋ぎ止め、左腕を振るう。腰関節が砕けんばかりの勢いで機体が刃と共に旋回し、正面に来た敵機を斬り裂く。なおも刃は勢いを止めず、さらにもう一度、その胴を深々と斬り捨てた。

ズタズタに斬り裂かれ機能を止めた機に早々と背を向けると、先程足止めした機体を視界に納める。すぐさま弾丸の嵐が襲来し、各所の装甲を削る。それを気にも留めず一気に反撃へと移ろうとするが ―― 何かの気配を感じその動きを止める。よく何かの気を感じる日だ ―― そんなことを思いつつばら撒かれる弾を極力回避しつつ右方向、基地の方へと目を向ける。見れば、いつの間にかヘリや“シミター”の数が激減していた。互いにかなりの数を潰しあったのだろうか。そんなことを思いつつ遠方を凝視する。

「あれは・・・・・・何だ?」

砲台、のようだった。純禾の言っていた“防衛機能”の一つだろうが ―― 異質、としか表現しようのない物体だった。三本の砲身が纏められている辺り、ガトリングガンの類とも取れるが、如何せんその口径が巨大すぎる。大型の砲弾ですら楽に通りそうなほどの太さ ―― 巨大な砲弾、という自分で思った言葉が脳裏を駆ける。次に来たのは、言いようの無いほど悪い予感だった。

根拠はなかったがこの立ち位置は危険すぎる。そう思い、尚もマシンガンを撃ち続ける機体の側面に回り込み、その背を蹴り飛ばしつつ砲台と自分との射線上にそれを挿む。

瞬間、それはやって来た。予感は当たっていた。それも、想像以上に。
轟音が響き渡り、射線に挿まれた機体が火球に包まれる。その一発で全身の表面装甲が砕け、炎熱に溶かされる。それが直撃する寸前、空へと躍り出てかわそうとしたようだったが、叶わず、地に機体は縫い止められている。さらにその爆発の余韻も治まり切らないうちに次々とそれが飛来し、機体を穿っていく。その光景は悪夢のようだった。既に機能を停止していると思われる機体は、倒れることも許されず連続する火弾に蹂躙される。そして、後方へと吹き飛ばされてくる溶け落ちた機体の欠片。それが数度繰り返され、唐突に止まる。撃ち込まれた砲弾の数は恐らく十五発 ―― それらを全てまともに喰らった重装甲の特殊ACは、誇張でもなんでもなく、文字通り鉄の屑と化していた。それにはもう、数十秒前にそれが人の形を取り、動いていたという形跡は、塵の一欠けらもなかった。

アオイは、それを為した砲台へと再び目を向ける。白煙が立ち上り、その威力を誇示するかのように鎮座していた。マシン・グレネードとでも言うのだろうか。この基地に最初からあれが配備されていたのであれば、先のACは自軍の兵器に完膚なきまでにやられたということになる。ある意味、非常に哀れに思えた。

「純禾、非常に厄介なブツが出やがった・・・・・・連射可能な、高威力グレネード砲台だ。一度捕まったら恐らくどうやっても逃げられん。十五発の弾を最後まで喰らい続けることになる・・・・・・」

声に若干の震えがあったかもしれない。だが、あの威力を目の当たりにすればどんな豪気な人物でも怯むことだろう。再装填か砲身冷却か ―― 長いインターバルがあると見受けられるものの、その凶悪性は変わらないだろう。

『わかったわ。こっちの方はもうすぐ片付くと思う。施設自体もある程度は破壊したわ。私もそっちへ向かうから、それまで付近の敵を』

「・・・・・・わかった」

あの砲台を片付けるには、囮役が必須だろう。でなければ、接近するのもままならない。一人が火砲の注意を引き付け、もう一人が素早く迂回、接近し沈める ―― 問題は囮をどっちが引き受けるかだが。機動力では彼女のほうが勝っているとはいえ、流石にあの砲弾を被弾径始で流せるとは思えなかった。
そう考えるうちにも“シミター”や“レプラコーン”の残党を撃ち落としていく。集中力が欠けているのか、普段より無駄撃ち多い。空になった弾倉を捨て、次をはめ込む。撃ちつつ、左腕を背後に伸ばし、背に取り付けられた“箱”の上部をスライドさせる。

ロケットランチャーをこれに換装しておいたのは正解だっただろう。元より、長期戦を見越してのことだった。そのまま手を入れ、ライフルの弾倉を三本掴み、引き抜く、その内二本を右ハンガーに収め、一本を今まさに撃ち終わった空弾倉と入れ換える。

火を吹き落ちゆく“シミター”を見据えつつも砲台へ意識を向けるのは怠らない。既に発射の準備は完了しているようだったが、撃ってくる様子はない。確実に屠れる距離に近づくのを待っているのだろうか。そんなことを思いつつ、付近にいる最後の戦闘ヘリを撃ち抜く。正面のガラスを突き破りローターを飛ばし、ほとんど原型を留めぬ形で落下していった。

丁度、反対方向からピンクに彩られた機体が向かってくるのが見えた。その背後にある施設群は、黒煙を上げている。その機体には、多少の擦過傷があったが、既に腹部を抉られ、各所の装甲へのダメージも小さくないこちらと比べればほとんど健康体と言えた。

『だいぶやられたようね・・・・・・重ねて聞くけど大丈夫?』

「・・・・・・動くには問題ない。内部の機関に破損はないようだ。運のいいことにな」

言葉通り、機動自体に影響はなかった。多少傷んだフレームが悲鳴を上げもするが、十分許容範囲内だ。

「で、あの砲台だが ―― どっちが引き付け役をやる?」

とりあえず、一番重要なことを聞いておく。別段、自分がやることになっても一向に構わなかった。

『 ―― 私がやるわ。どの道この機体じゃ火力不足 ―― 破壊に時間がかかるわ。行って。砲台の方は任せて』

理に叶った返答ではあったが、何処か、受け入れ難い返事であった。その理由が何なのかは、分からなかったが。それでもその言い知れぬ思いを飲み込み、突撃をかけるべく準備をする。

「 ―― 気を付けろよ」

『 ―― えぇ』

それだけ言うと、もう振り返らずに大きく迂回しつつ砲台へと肉薄していく。

そしてあることに気付く。実際、どうでもいいことだったが。
純禾に対して最後に発した言葉が、先刻彼女が自分に言った言葉と同じだということに。

それが何かの偶然かはわからない。だが一つだけはっきりしているのは ――


青の大洋は未だ強襲に打ち震えている、ということだけだった ――

 

 

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