ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 2. #.4 “CALM SEASHORE IN THE DUSK”
ブースタの青白いブラストを背後に引き摺りつつ海上を直走る。海上基地の様相は、既に大きく変化していた。所々から黒煙が立ち、建造物が屑鉄の山に変貌している。海面に立ち並ぶ鉄塔も多くが爆発に焼け焦げ、折れ、また銃弾に全身を撃たれていた。
さらに
――
何時の間にそんな時間が経ったのか、陽がだいぶ傾き始めていた。恐らくそこまでかかることはないだろうが、帳が落ちてからではやはりやり難い。それに、あまりに時間をかけてはさらなる援軍が来る可能性も、無きにしも非ずというところだった。
水を蹴上げつつ往く中、アオイの目がそれらを捉える。
「まだ残っていたか・・・・・・流石重装甲というべきか・・・・・・だがな」
眼前に立ちはだかるのは三つの機影。先刻、別方向へと展開していったクローム特殊ACの軍勢だった。付近にムラクモ系の勢力がないことを見ると、全て彼らの手によって排除されたようだ。だが、流石に無傷でとはいかなかったようで、各機とも消耗が見られた。それに関しては、こちらも同じなのだが。
「邪魔だ・・・・・・!」
加速を緩めず、右手を持ち上げる。銃口を中央の一機に向けると弾倉に残っていた十数発を一息に撃ち込む。火線は機体に集中し、装甲を叩き、同一の箇所を何度も撃たれる内に鎧は砕け散り、内部へ侵入した弾丸がその機能を停止させていく。
一機を打ち倒すと素早く弾倉を交換し、さらにもう一機を叩く。連続する銃火に手に持ったマシンガンが撃つ間もなく吹き飛び、次いで腕の関節を撃ち飛ばす。カメラアイが高い音と共に飛散し、終いには頭部ユニットが後方へと飛んでいった。止めの一撃を胸部に撃ち込み、再度弾倉を海面に落とす。ただ今度は新たな弾倉を填め込むことはせずに左手を胸の前に構える。敵は、“槍”を剥き、突進してきていた。
距離が詰まると同時に左腕を後方へと伸ばし、零距離にて一気に前へと振り切る。青の刃は二本の棘の間を、それを焼きつつすり抜け、空中に蒼の弧を描きつつその胴を撫で斬った。その残影が消える頃、大質量の塊は他の多くと同じように海へとその身を落とした。
その間にもブーストを緩めることはなく、徐々に砲台との距離は消滅していく。純禾の機も同じく砲台に正面から接近していっていた。恐らく、砲台は自分に近いものから狙う筈だ。それに見た所、一度撃ち始めるとその射方向を大きく変更するのは不可能なようだった。例え固定された砲台だとしても、かなり反動による負荷がくるに違いない。
進行方向を内向きに変え、扇を描くように移動していく。砲台との距離も、さらに詰まる。視界の隅には“煌珊瑚”があった。
突如あの腹に響くような砲撃音が聞こえ、砲弾が空にはっきりと、その軌跡を刻み込みつつ駆け抜ける。そして“煌珊瑚”の、その機体へと牙を剥く。
右へと機体を滑らせ砲弾をかわす。海面に着弾、水飛沫とともに爆風が広がり、こちらから彼女の姿をみとめることができなくなる。さらに撃ち込まれ、その異常な熱量に水面から大量の水が蒸発し、白い霧が昇る。
――
信じるしかない、ということか。
そう思うと砲台へ一気に接近し、勝負をつけようと決め込み機を走らす ――
が、無意識のうちにもう一度そちらを振り向いてしまっていた。そしてそれを見た。
細身の機体が、足下に着弾したグレネードの爆風によって宙に突き上げられるのを。そして、そんなことには当然お構いなく、発射される次弾を。
「くそ・・・・・・っ!」
あの状況が最も危険だということは、アオイ自身身をもって知っていた。あの時は相手がまだチェインガンだったからこそ大事には至らなかったが
――
今度の相手は巨大な砲弾だ。それも、一撃でACの外装を吹き飛ばし、機能停止寸前にまで追い込むほどの威力を秘めた。
反射的に行動を起こしていた。左脚を踏ん張り急制動をかけると同時に肩のグレネードを構える。すぐに完全には止まらない機体が水面を滑る。完全に目視で、“そこ”に弾を撃ち放った。
「・・・・・・っ!」
発射の衝撃に機体が後方に投げ出されそうになるが、その反動をも利用して機体を砲台の方へと向ける。右のライフルを構えつつ、グレネードの結果も見届けることなく。
一瞬で銃口を、飲み込まれそうなほど暗い砲口に合わせると躊躇いなくトリガーを引く。空間に波紋が刻まれ、高速弾が穴へと吸い込まれていった。
刹那の後、動きを止めた“天風”の前後で続けて大爆発が起こった。視界に映るのは、空高く舞い上げられた砲塔、そして折れ曲がり、燃える砲身。砲身内で丁度発射された砲弾と正面衝突したのであろう、凄まじいまでの爆発力は砲台の破片を近くまで弾き飛ばし、機体表面を軽く叩いた。
それから、ゆっくりと振り返る。そしてそれをみとめると、安堵の吐息と共に肩の力を抜いた。実際のところ、とんでもない低確率の大博打だったことに気付く。全く同じ座標を、全く同じタイミングで二つの砲弾が通過しなければ為し得なかったことなのだから。さらに言えば、砲台をあそこまで破壊できた可能性も、実質三分の一だった。どの砲口から次が発射されるか
―― またそれも賭けであった。
――
硝煙の中佇む彼女の機体。その周囲には、二つの砲弾の砕け散った塵が舞い飛んでいた。それが大博打に勝った見返りなのだろうか。だとしたら ――
賭けた価値は果たして十分と言えるだろうか。
「全く・・・・・・」
それしか言うことができなかった。思えば最近、短期間で一生分の運をどんどん使い果たしていっている気がした。何処かでそれが裏目に出なければいいが
――
『 ――
何と言うか・・・・・・取り敢えずお礼を言っておくわ。ありがとう』
「あぁ・・・・・・まぁ、結果的に何とかなったわけだ。これで基地勢力もほぼ壊滅
―― ん?」
これで落着 ――
といきたいところであったが、そうは上手くいかないらしい。ほとん廃墟と化しかけている海上基地の影から、何処に隠れていたのか“陽炎”、そしてその同系列機の“不知火”がその姿を見せ始めていた。その数、合計で十五機ほど。
「つくづく往生際の悪い奴等だな・・・・・・まぁ所詮頭数揃えたところで雑魚の塊だ・・・・・・とっとと片付けちまおう」
彼らのしぶとさには嘆息すべきものがあった。元々“陽炎”等は隠密任務に就くことが多いのだが
――
当然隠れ潜む能力も優れているということか。
『えぇ・・・・・・彼らを倒したら早めにここを離れましょう。物資がどうなったかはわからないけれど・・・・・・どの道、当面の間この施設は利用できない筈よ』
「わかった・・・・・・確かにここまでやられてはな」
敵もそれを察したのか、三機ずつの小部隊で飛び掛ってくる。ある意味で、彼ら基地を防衛する筈の勢力も、その守るべき基地を破壊するのに一役買っているような気がしないでもなかった。施設に突っ込み、未だ火の手を上げている“スーパーシミター”など、そのいい例であろう。
早速と言うべきか、彼らは既に瀕死状態にある施設群に追い討ちをかけ始める。“陽炎”が手に持つ携行ランチャーから放たれた実体弾、“不知火”が有する高出力エネルギーライフルの光軸共に相対する敵機を捉えられず、背景にある基地をさらに破壊するに留まった。その間にも容赦なくリニアライフルが撃ち込まれ、蒼と紅の刃が乱舞する。瞬く間に“陽炎”“不知火”の混成チームは、その数を半減させていた。
パルスライフルの熱量に“陽炎”の、やはり脆弱と言わざるを得ないフレームが上げる悲鳴も、すぐに断ち切られる。続けざまに襲来する光刃によって。
残り、六機
――
既に敵側の敗戦色は濃厚であり、諦めの気配も漂い始めた。それは、敵の行動を見れば明らかだ。最早弾を撃ち尽くしたこともあってか全機が各々の飛び道具をその場に捨て、白兵戦を狙いにきていた。これまでの経過を顧みれば、それによる勝機の余りの無さぐらい、誰でもわかる筈だが
―― そう言ったところで、どうしようもないと言えばどうしようもないが。
「ブレードで来るか・・・・・・玉砕覚悟 ――
ということはないだろうな・・・・・・」
云いつつも、ブレードを片手に斬りかかってくる機を迎撃する。目標を見失い水面に叩き付けられた刃の上を青が揺らめき、一瞬にして左腕から胸部までを持っていく。操る主のいなくなった機体は、まさしく糸の切れた操り人形の如くブレードを振り切った姿勢のまま、その場に崩れ落ちた。
一方で純禾の方も、彼ら相手に立ち回りを演じ続けていた。今まさに振り下されようとする腕の手首を、そっと触れるようにして押し止め、のど元に刃を滑り込ませそのまま一気に下方へと斬り開く。屠った機体を蹴倒し、背後から迫る別機の弓手を振り向く動作と同時に斬り落とし、武器と体の一部を失い狼狽する“不知火”に引導を引き渡す。
その優雅ともいえる機体の動きは、さながら舞を観ているかのような錯覚さえ覚えさせた。
残り、三機
――
否、二機。今の瞬間、一機が零距離で放たれたライフルに腹部を貫かれ、屑折れていた。
残された二機も何とか一矢報いようと奮闘するが、やはりそこは技量の差というもの、結局一太刀も浴びせることができぬまま、その身を蒼と紅の刃に捧げ、大洋に没した。
「これで
――
最後か」
『そのようね・・・・・・』
構えを解き左腕を下ろす、やはり満身創痍の機体がそこにあった。が、その動きには鈍ったところは見られなかった。隣に立つ機も、十分に未だその装甲面の美しさを保っている。あれだけの部隊に対してたった二機で向かい、この結果は奇跡、とも言えた。
「
――
いくか?」
もう此処に長居する必要は無い。アオイの言葉を受け、暫し周囲を見回していた純禾がその動きを止めると、口を開く。
『そうね・・・・・・もう、周囲に他の敵は居ないよう
――
いきましょうか』
それを聞くとアオイは無言で機を反転させると、そのままその機体をやや浮かすと、水上を駆けていった。純禾もそれに続いて海上基地の、エリアから脱する。
大洋は、一時の静けさを取り戻した
――
数十分後。人っ子一人居なくなった海上基地 ―― 今は既に廃墟と化しているが ――
に、一機の見慣れぬACが降り立っていた。
特徴的なブレードアンテナが目立つその頭部、そして異質感を醸し出す、そのフォルム ――
夕日に映えるその頭部が周囲を一瞥し、何かを考えるかのように一瞬止まる。だがそれも僅かなこと。すぐさま顔を起こすと、水を蹴り上げ、何処かへと走り去っていった。
その動きは、何処か苛立っているかのようであり、また何処か楽しんでいるかのようでもあった。
今度こそ廃墟は静けさを取り戻す。黄昏る空を、足元の水面に映しながら
――
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