ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 3. #.2 “GRIP THE END”
蒼く輝く月下の荒野にて、対峙する二機のAC ―― “それ”は、明らかに自分が来るのを待っていた。
『 ――
貴様も随分と派手に立ち回ってくれているようだな・・・・・・俺が折角してやった警告も、結局無駄足だったということか』
眼前の銀に塗られた異形のACから、音声が流れる。だが、その内容と裏腹に、苛立ちは感じられない。むしろ、何処か楽しんでいるようでもあった。
場所は“アイザック・シティ”の例の“通路”から十キロほど離れた場所だった。施設を破壊し家路を辿っていたアオイとその機は、此処であの男
――
スティンガーと再び接触することとなった。
「まぁな・・・・・・で、一体何用だ。茶番の続きでも、催してくれるのか?」
敢えて、挑発するような口調で言う。実際、今までにないほど緊張していた。あの時とはまた奴の様子も微妙に違ったが
―― より、その発するプレッシャーが強烈なものに変貌しているようにも感ぜられた。
『 ――
貴様如きとやり合うなど、甚だ面倒なことだが・・・・・・そのためにわざわざ俺も出向いて来てやった。やり過ぎたこと、せいぜい後悔しろ。あれが最初で最後の警告だ、引き返すことは、もうさせんぞ』
「引くなど、こっちから願い下げだ・・・・・・御託はいいから、とっとと始めようじゃないか」
感情を抑えた声で返す。余計な思いは切り捨て、集中しなければならない
――
並みの相手とは、格が違う。それはアオイ自身、重々承知していた。
『ならばいかせてもらう。死んでから後悔しても、知らんぞ』
「まだぐだぐだ言うのか・・・・・・色々言っておきながら、火付きの悪い奴だな・・・・・・それともなんだ、まさかそこまで言っておいて、自分の方が自信が無いとか言うんじゃないだろうな」
最後の打撃
―― というか発破をかけたつもりだった。別段、相手の冷静さを欠かせるような、姑息な結果を狙ったわけではない。ただ ――
このまま膠着が続くと、目に見えぬ重圧で押し潰されてしまいそうだった。現に、体を一筋の冷たい汗が伝う。
『覚悟はできている、か ――
ならもう何もいうまい、死ね』
同時に二機が地を蹴り、互いに最適な立ち位置を求め、牽制しつつ移動する。口火を切ったのは、相手のライフルだった。マズルから飛び出す青白い光。予想通りエネルギーライフルだったようだ。だが同時に予想外のことも起きる。光は、さらに連続して二回、放たれた。
「バーストか・・・・・・厄介な機能付けてやがる・・・・・・」
一、二発目は難なくかわすが、三発目が腰部の装甲を打つ。青い光芒が弾け、装甲が溶解する。一発でこの威力だ、全弾的確に命中すればその部位を完全に破壊することができるだろう。舌打ちしつつ、こちらもライフルを撃ち返す。装備を海上基地襲撃時と同じく、追加弾倉のままにしておいたのは正解だった。既に予備弾倉はハンガーの方へと移動させてあった。
飛来する二発の弾丸を易々と回避する敵機。その機動力は“陽炎”以上だった。岩場を盾に氷雨の如く降り注ぐレーザーを避け、接近のチャンスを探す。接敵すれば、それだけ武器の命中率は上がる。諸刃の剣ではあるが、このままでは分が悪い。
相手が着地の際、一瞬動きを止めたのを見逃さず、一気に空中に躍り出る。そのまま敵の頭上に出ようとするが
―― いきなり放たれた火球に足を止められる。眼前で炸裂したグレネードの反動に、機体が傾く。何とか持ち直すが ――
ほとんど間隙を置かずに、第二弾が飛来する。
「くぉっ・・・・・・連射可能だと・・・・・・!」
右の爪先に命中したグレネードは爆発のパワーを解放し、機体を弾き飛ばした。凄まじいGがかかる中、銀の機体が飛び掛ってくるのを見る。その右手、握られたライフルの前方下部に付けられた黒い塊からは、紫煙が立ち上っていた。そして左腕に付けられたシールド、先端の二個の銃口のような部分から、青い、太い光軸が二本、迸る。袈裟に振り下ろされる腕を、とっさに動かしたこちらの左腕、装備されたブレードで受け止める。そのまま刃を展開し、相手の腕を弾きつつ今度はこちらから斬りかかる。飛び退る相手に光刃が貪るように追い縋り、その脅威を叩き付けようとするが
――
突如全面が薄青く発光し、半不可視の膜を形成したシールドに阻まれる。どちらのものとも知れない砕けた青が飛び散り、同時に斬りつけた“天風”の全身を反動が襲う。
落下する機体に敵の追撃がかかる。放たれたレーザーが左肩の装甲を、右脚のサイドアーマーを深々と抉る。だがいまなら敵も回避できまい
――
そう判断し、ライフルを立て続けに見舞った。疾駆する弾はシールドに突き刺さり、装甲面に傷を付ける。途端そこから火花が散り、残滓のように周辺部に残っていた薄膜が消滅した。どうやら、あの機能を封じることができたようだった。
寸前までに何とか体勢を立て直し、岩場に足を着ける。が、すぐさまそこを起点に再び宙へと跳ぶ。岩場にグレネードが着弾し、砕けた小岩が機体背部を叩いた。
すぐさまくる、青糸の嵐。なんとか掻い潜り、ライフルを向けるが
――
正面方向に、敵は居なかった。
「くっ・・・・・・しまった・・・・・・!」
レーザーの回避に集中する余り、敵の挙動に対する反応が疎かになっていた。敵は自分の死角、背後にあった。歯噛みしつつブースタを吹かすも、間に合わない。横に振られた通常のレーザーブレードよりも明らかに強力な光刃
――
プラズマトーチがコア背部の一部とともに、グレネードの砲身を根元から持っていった。後悔やみをしている暇はない、すぐに破損した武器を切り離す。幸いなことに弾倉部は傷つけられなかったようで、地に当たった残骸が、爆発を起こすことはなかった。
機体を高速で旋回させ、相手を視界に入れるが
―― 墓穴だった。同時に放たれたレーザーが頭部のブレードアンテナを掠めていく。それも、上端と下方を二回。
( ―― レーダーユニット破損 ――
索敵機能低下中、緊急補正機構沈黙 ―― 索敵性能可能維持率37% ――
)
内蔵コンピュータが被害状況を告げる。芳しくない状態だった。下方をも同時にやられたため、そこに内蔵されていた緊急時にレーダーを強化する機構も破壊されたらしい。一気にレーダーの総性能がダウンする。索敵範囲の狭窄に留まらず、レーダーには頻繁にノイズが走り、到底使えたものではない。まるで強力なECMをかまされたかのような状態だった。
「レーダーを・・・・・・よりによって・・・・・!」
だが苛立ったところでどうにもならないのは分かり切っている。コアに装備された精度の劣るレーダーと各種補助センサ、後は自身の勘に頼るしかない。奴相手には、かなり苦戦しそうだったが、仕方あるまい。
相手を捉え、残った弾丸を一気に放出する。突然の、それも至近距離での攻勢に一瞬相手がたじろぎ、それが隙となる。敵に与えたダメージは微量であったが、こちらが接敵するには十分な間を得た。
再び接近すると同時にブレードを振るう。今度はフェイントを交え、下方から斬り上げると見せかけ、自ら跳ぶと同時に一気に横に薙ぐ。当然上方向に飛んで避けた敵機のコア上部をブレードは掠め、両の肩装甲を撫でた。
――
浅い。手の内を返し、反対方向に薙ぐが、今度は敵も対応してくる。シールドで腕を受けられ、再度鍔競りとなった。が、出力で押し負ける。押し切られ、機体が大地に叩きつけられた。
「ぐっ・・・・・・」
衝撃に、息が詰まる。しかし、コアに向けて突き立てるように青を突き下ろしてくる敵機を確認すると力を振り絞り行動を起こす。寸前まで迫った敵めがけて、あの時と同じようにマイクログレネードを全弾発射した。
三発はシールドで防御されるも、残りが敵の肩、コアの隅に突き刺さる。二発が刺さった右肩の装甲が爆風と共に砕け散り、コアからも破片が舞う。同時に空中に突き上げられた敵を狙い、跳ね起きつつブレードを展開する。だが、突き進む刃の先にあったのは、暗い砲口だった。
相手の冷静さに一瞬驚きつつも、ブースタを噴射し強引に軌道を横にずらす。多大な負荷がかかるも、気にしてはいられない。その真横を、熱い塊が駆けていった。地面を抉るほどの爆風に、さらに吹き上げられる二機。硬直から逃れると、二機が二機とも同じように、狂ったように弓手を振るった。
幾筋もの蒼い残影が宙に刻まれ、一種のアートのようにも見えた。だが、どちらの刃も決定打を与えるには至らない。奇跡的なことだが、狂気の刃は装甲を薄く傷つけるに留まっていた。これで最後とばかりに両機が同時期に、同じように後退しつつブレードを横薙ぎにする。
単発の青は銃下部のグレネードを切り裂き、弾き飛ばす。そして遠方の岩場に当たり、爆音が空気を振るわせた。
双発の青も同じく銃先端部の下方、白いパーツを斬り開き、真白い気体を噴出させる。地に落ちたそれは、その場を白く凍てつかせた。
(
―― ライフル冷却機構破損、バレル冷却能低下 ――
)
コンピュータがよく喋る日だ、と思う。が、そんな悠長に構えてはいられない。リニアライフルに装備されていた、銃身の冷却装置、そのタンクが破壊されたのだ。何故あんな先端に付けられていたのだ
――
と、恨めしく思う。
これ以降、ライフルを連射することはできない。銃身の温度が高まり過ぎた時に発射すれば、間違いなく粉々に砕け散る。単発で撃っていったとしても、限界が来るだろう。空になったままだった弾倉を交換しつつ間合いを取る。相手も切り取られたグレネードランチャーの残りを捨てると、同じように下がった。
『なかなかやるようだな・・・・・・だが、限界は近いはずだ』
「言ってくれる・・・・・・心配せずとも、まだまだ十分戦える」
実際、どちらかといえば状況は悪化の一途を辿っていた。先に被弾した右脚からも、微量ではあるが冷却液が漏れている。その影響だけに留まらず、過負荷をかける行動の連続に、機体全体の温度が普段より上昇していた。下手をすれば一気にオーバーヒート、ということも十分有り得る。
(長期戦はまずいか
――
)
短期決戦を決めるには、ブレードでの一撃必殺にかけるしかない。ライフルの機能が著しく減衰している以上、それが最後の頼みだ。だが、それをも断ち切られようとしていた。
「喰らった・・・・・・!?」
避け損ねたレーザー弾体が左腕の関節部分を裂く。その切れ目からエネルギーパルスと共に火花が弾けた。
(
―― 左腕部被弾、エネルギーサプライヤーに異常発生 ―― 左腕エネルギー供給率42% ――
)
冷や汗が頬を流れた。左腕の挙動が酷く重い。まるで報告を体現するかのようだった。重い腕を叱咤するように動かし、間近まで迫った敵に対してブレードを展開する。が、その刀身長は、常時の半分以下になっていた。さらにその光芒もか細い。試すように敵のシールドに叩きつけるも、一筋の溶け跡を残すのみだった。半ば絶望的な気分になりつつもライフルを放ち、敵を蹴るようにして間合いを離す。
(長さは“ダガー”クラス、威力は“木刀”以下か・・・・・・最悪だな・・・・・・)
“ダガー”とは高収束型の短距離ブレードの通称だ。刀身が異常に短いものの、有り余る威力がそれを補う。が、今の自機のブレードには、“木刀”
――
最安価の低威力ブレードほどの威力も有するか否か、といった状態だ。すでに、使い物になる代物ではない。
「仕方ない・・・・・・」
これもまた使い物にならなくなっている頭部のレーダーへのエネルギー供給を絶ち、その分を左腕に回す。せめて、腕の動きだけでもまともにしなくては、という思いからだった。
左腕に余暇分のエネルギーが流れ、若干動きから重さが取れる。その間にも降り注ぐレーザーは、着実に装甲を削っていっていた。こちらもライフルを撃ち返してはいたが、如何せん攻撃の密度が薄い。回避され易いのは勿論のこと、その威力も問題だった。
『いい加減くたばれ・・・・・・これ以上長々と貴様の相手をするのは、面倒だ』
「っ!」
僅かに苛立ちを垣間見せる声で言うと、銀流を後に、超高速で接近してくる。そしてその左腕が大きく振るわれた。青い、二本の輝きを伴って。
瞬間、金属の激突音、凄まじい振動が巻き起こる。
『貴様・・・・・・まだ抗うか・・・・・・!?』
「
――
悪いが、最後まであがかせてもらう」
プラズマトーチは“天風”の右肩装甲に、深々と突き刺さっていたが、そこで押し留められていた。間に挿まれた、左の掌によって。青い光が、小さく震える。
肩の装甲を自ら破壊しつつリニアライフルの先端を腕と盾との間に強引に捻じ込む。既にその銃身からは、微弱ながら白煙が昇っている。
――
限界だった。だが構わずアオイはトリガーを引き絞る。しかしその瞬間、彼は敵の腹部に、蒼く透き通るような光が湛えられるのを、はっきりと見た。
周囲に砕ける閃光が目を焼き、空を裂く波紋の共鳴音が耳を劈いた
――
閃光も音もおさまって数秒の後、よろけるようにして相手から機を離す。が、状況は凄まじいものだった。
拡散プラズマキャノンをまともにもらった左腕は、肘下がほぼ完全に消失し、その背後にあったコアの第二装甲層までが完全に焼かれていた。最終層まで貫通しなかったのは、ひとえに身代わりとなった腕のおかげか、あるいは奇跡か。右腕も同じく余波を受けて焼け爛れ、その手が持つライフルも変わり果てた姿を呈していた。恐らく発射と同時に砕け散っていたであろう先端部と、直後にきたプラズマによって焼かれたであろう中間部は、共に原型を留めていなかった。さらに跳ねたプラズマ流は、頭部のバイザーブロックを叩き割り、周辺部の内部構造を外に晒している。他にも、大小の爪痕が各所に見られた。
はっきり言って
――
自分が無事、生きていることが信じられないほどの、破損状況だった。まさに、奇跡的、としか言いようがなかった。
そして眼前にまだ立つ、銀のACに目をやる。ノイズの走るモニターに映ったその機体も、やはり変わり果てていた。そして、怒りか、何かに打ち震えるような動作をしている。
『貴様・・・・・・やってくれたな・・・・・・だがな、貴様が何をしようと、最早手遅れだ』
コア先端部を粉砕され、そこから貫通したのか特徴的な頭部の大部分を吹き飛ばされた機体から、怨嗟のような声が洩れる。
「手遅れ
―― だと?」
聞き返し、身構える。まだ敵には武器が残っているが ――
こちらは既に丸腰だった。だが相手は攻撃動作を取ることもせず、続ける。
『貴様が基地を叩こうとも、レクテナを破壊しようとも、痛くも痒くもないと ――
そういうことだ』
「どういうことだ・・・・・・?何が言いたい」
自分の中で、若干の焦りが生じていた。何に対してかは、分からなかったが。だから自然と早口になってしまう。
『既に“あれ”は完成間近。もう、何をしようとも、「止まらない」さ・・・・・・ふふふ・・・・・・ははははは・・・・・・』
幽鬼の如く笑いを上げるスティンガーに、戦慄が背を駆ける。気付けば、背が、掌が、嫌な汗でびっしょりと濡れていた。
『さっきも言ったな・・・・・・何をしようと手遅れだと・・・・・・貴様は気付いているのか?事実に。物事の外周を、「自分達の」視点から見回しているだけでは、結局何も掴むことができずに終わる
―― それを、理解しているか?』
言葉を返すことができなかった。「自分達の」視点 ――
それは一体・・・・・・
『まぁいい。事実を知るのは常に良いこととは限らない ――
それと気付かず、踊り続けるというのも、また幸せかもしれないな・・・・・・』
奴の口調には、こちらの反応を楽しむかのような色があった。黙ったままでいると、顔を失った機体は、淡々と続ける。
『俺が面倒を押し殺してわざわざ貴様を始末する必要もない
――
俺が手を下すまでもなく、あいつが必ず貴様を消す。それが、現実であり、既に定まった事実だ。ここまで言っても分からないか?ならせいぜい、暗中模索を続けるがいい・・・・・・』
そう言い放つと踵を返し、何処かへと疾走していった。止めることもできなっかった。武器を使わずしても、口を使って相手を止めることはできた筈
―― だが、実際には一言も発することができず、漠然と彼の言葉を脳裏に転がす自分がいた。
「あいつ・・・・・・だと?一体誰の事を ――
」
そこで一つに思い当たった。だが、到底すぐには受け入れられる回答ではなかった。例えそれが事実だとしても。だがしかし ―― 「自分達の」視点
―― その一言が、頭から離れていかなかった。
そのまま、アオイは数刻をそこで過ごした ――
彼は思考の奥底に感じていた。全てが一つの終結点に向けて、まるで握り潰されるかのようにして、収束していくさまを ――
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