ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 4. #.1 “un-MAN CRAFT”
周囲に広がる暗闇 ―― その中に僅かに輝く街灯、そしてビルの明かり。遠くに聞こえる、何かが闊歩し、“敵”を穿つ音 ――
あの男の言葉に妙にざわつく心は、何故かその音に、必要以上の過敏な反応を示していた。まるで、その“音”の根源がそれの一端を握っていることを、示唆するかのように。
「こんな所で兵器のテストをやるとはな・・・・・・度胸があるのか、それとも何も考えていないのか・・・・・・はたまた、灯台下暗し的な効果を狙っているのか・・・・・・」
時は深刻。場所は地下都市の市街地、そのとあるブロックだった。月は丁度雲に隠され、明かりはほとんどない。だがその中でも、派手な色彩を施された二機のACは、何処か闇に浮かび上がってみえた。
『さぁ、ね・・・・・・それより、機体が何時もと違うみたいだけど・・・・・・』
数メートル離れたところに立つ、純禾が問う。何と返答するか一瞬迷ったが、一応、遠回しなことを言っておく。詳細の必要があれば、また後に言えばいい。
「ま、色々とあってな・・・・・・あれより性能自体はやや劣るが、構成的には似たようなものだ、大差はない」
『そう・・・・・・』
何か聞きたげな色が声に垣間見えたが、そのまま黙ってしまった。コックピットの中、アオイは大きく息をついた。漠然とした思いだったが
―― 何かが違うような感じがしていた。何かが動いている、何かが狂っている ――
そんな感じが。だが、やはりそれが現実なのか。それとも、狂っていたことに今までただ気付いていなかったのか ――
やはり、何かがおかしかった。今までは、こんなに一つのことに対して長々と逡巡するなど、一度もなかったのに、今回は ――
取り止めのない思考は、結局再び彼に溜息をつかせるに終わった。
見事なまでに破壊された“天風”をまじまじと見つめたあと、彼
――
アドヴァントは自分の隣に平然と立つアオイの全身を、まるで幽霊でも見るかのような目で見回した。まぁ、無理も無いことだろう。現に、あのプラズマ弾はコアの最終装甲層を後一歩で貫通、というところまで迫っていたのだ。やはり誰が見ても、あの状況で搭乗者がほとんど無傷だったというのは、奇跡としか思えないだろう。
しかしながら、機体を一通りチェックし、修復はかなり難しいとの判断をしたアドヴァントには、ただただ悲惨な現実が待ち受けていた。
「修復が無理なら、作れ。資金はいくらでも出してやる。そうだな・・・・・・まぁ、四日ぐらいで頑張ってくれ」
その、既に無慈悲という次元をも数万光年は逸脱した言葉を耳にしたアドヴァントの表情が、どんなものであったかは、最早言うまでもないだろう。そして、それだけ言い残すと半石化した彼を残し、前と同じように“依頼”の詳細をチェックしに行ってしまったアオイのことも、また然り。
その時は取り残された彼も、何かが間違っている、と思ったかも知れない。既に別室へと引き取ってしまったアオイが知るところでは無かったが。
そしてその“依頼”が
――
これだった。ウェンズディ機関の“試作兵器”の性能テスト、その襲撃が“依頼”の内容だ。“試作兵器”というのは当然、例のファンタズマ計画とも関係しているものだろう。果たしてそれが、どんな性能を持っているのかは不明だが。
ビルと街路樹の間に身を隠し、それが行われている方へと再度注意を向ける。大通りを挟んだ向こう側、そこで甲高い銃声が鳴り響いたかと思うと、続けて爆発音が伝わり、揺らめく炎が僅かに見て取れた。そしてブースタの噴射される音と金属が舗装された路面を擦っていく音とが重なる。街灯に照らされ、背の高い影とそれを追うかのような若干低い影が、同じように引き伸ばされ、巨大なビル壁面に薄く映し出された。
『
――
追いかけている方の影は、テスト相手のレイヴンね・・・・・・多分機体は四脚。“試作兵器”は二脚型だと聞いているから、背の高い方・・・・・・どうする?』
大方、街中に居るガードメカか何かを標的に、撃破数でも競っているのだろう。状況的に見て、二脚
―― つまり“試作兵器”の方が優勢なようだった。地上走破性能でなら勝っているであろう四脚機体の方が押されているというのは、正直妙にも見えたが ――
それだけ、二脚の奴が優秀ということか。
「俺が“試作兵器”とやらの相手をする・・・・・・名も知れぬレイヴンの方を任せていいか?」
手に持つアサルトライフルのチェックをしつつ聞く。リニアライフルがほぼ完全に破壊されてしまった今、予備の武器を使うしかない。ブレードも同じく、別のものを装備していた。この装備で未知の敵と戦うのは正直微妙な感があったが
―― 彼女の機体が持つ武装のことを鑑みれば、自分がそちらを取るのが妥当と思えた。
『 ――
わかったわ。それじゃ、行きましょう』
首肯の言葉を聞くと、すぐにビルの間へと飛び込む。このままビルとビルとの隙間を縫っていけば、恐らく相手より先に、次の交差点に出られる筈だ。再び銃声がビルの谷間に反響する。どうやら、また獲物を見つけたらしい。足を止めてくれれば、それだけこちらにとっては好都合だ。レイヴンの方が追走を諦め、別方向へ索敵をしに行ってくれれば尚好都合だったが
――
流石にそれは、奴と接触する段になってみなければ分からない。狭間から見える視界は限られていたし、あまりそちらに意識を向け過ぎると操縦の方が疎かになる。機体のサイドを擦るようにしながらでないと、通り抜けることは不可能な路地裏を走っているのだ。万一派手にビルと正面衝突でもしたらただでは済まないだろうし、時間も無駄にしてしまう。
コンクリートの冷たい路面が削り取られ、擦れる金属が火花を散らす。路地から飛び出し、再び大通りに出る。緑が敷かれた中央分離帯付近で、それの到来を待つ。一つ向こうの通りから、青い光の反射が見えた。また、獲物を狩ったのであろう、次は必ずここに出てくる筈だ。対向車線側奥に、何物か
――
恐らくガードメカの存在があることをレーダーが告げていた。
炎上音がし、ブースタの噴射がさらに近くに聞こえた。
「さて・・・・・・どんな奴か拝んでやろうじゃないか・・・・・・」
身構える自機の前、影が飛び出す。影は見知れぬ物体の存在に一瞬動揺の素振りを見せたが、すぐにこちらに対し、身構える。その両手には、二つの銃器が握られていた。左腕にも銃器を持たせるというのは、珍しい。と、言うよりも一般的ではなかった。
「あれは
――
“カラサワ”・・・・・・か?だが・・・・・・」
“カラサワ”とは、WG-1-KARASAWAという、極めて高性能なプラズマライフルの通称だ。だが、青に塗られた機体が右手に持つ巨大な銃器はそれに形が似てはいたが、完全に同型とは言えなかった。アオイが迷いを見せたのはその為だ。
前触れ無くその銃口から青い弾体が吐き出される。独特な発射音を伴い放たれたそれは、寸でのところで回避した“天風”の左肩を掠め、後方に建つビルの窓に突っ込んだ。弾の色と同じ、青い爆風がそこで起こり、割れた周囲のガラスを溶かし、構造材を焼いた。振り向く“天風”のスリットアイには、焼けた内部を晒し、煙を上げる破壊されたビルが映った。あの威力は、間違いなく“カラサワ”のものだった。
「いきなりか
――
しかし、あれは何だろうな・・・・・・“カラサワ”には違いないだろうが・・・・・・」
僅かに溶けた肩部装甲の状態を確認しつつ呟く。形状は変化しているが、性能面にはそう大きな差は無さそうだ。とすると、外装を変更し、後は内部機構を少々調整した程度のマイナーチェンジ型か・・・・・・あくまで推測だったが、そう捉えるのが妥当に思えた。
因みに、後続のレイヴンは未だに姿を見せていなかった。これだけ経ってもこない所を見ると、都合よくこいつの追跡を諦めてくれていたようだった。
「さて・・・・・・まずは・・・・・・」
普通に考えれば“カラサワ”を落とすことを狙うべきだろうが、それよりも左腕に装備された火器の方が気になった。見た感じガトリングガンのようであったが
――
どうもあれを放置しておくと、後々厄介な事になりそうな気がしていた。特にこれといった理由は無かったのだが。
相手が再び“カラサワ”の銃口を向けるのに先行して、右のアサルトライフルを構えるとフルオートで間髪入れずに発射する。弾倉に納められていた三十発の高速徹甲弾は、ほんの二、三秒の内にその全てが銃口から吐き出され、敵機の左上腕部に集中する。金属同士の激突で火花が散り、次々と飛来する弾丸に装甲を削られ内部構造をも破壊されたその腕は、手に持つ銃器ごと後方へと千切れ飛び、着地点から路面を滑ると中央分離帯の植え込みに激突し、そこで停まった。衝撃に植え込みの一部分が潰れ、緑が闇夜に舞い上がりその様を弱々しい光が照らした。
素早く弾倉を交換しつつ、敵の挙動を窺うが
――
彼、敵機は微動だにせずに、飛ばされた左腕に一瞥くれたのみであった。その様子からは、まるでそのことを全く気にしていない、あるいは気にするまでも無いこと、と言っているように感ぜられた。
余りにも泰然とし過ぎている
―― 乗っている人間が一体どういう精神構造をしているのか気になり、その全体に平たいコア ―― XXA-S0を睨むように見たとき、はたと思う。
――
本当に“人間”が乗っているのか、と。あの中に居るのが強化人間の一種とも言える、“ファンタズマ計画”の代物ならば、既に人としての外郭や、感情等を失っていても不思議ではないと
―― だがそれを思ったとき、何故か背筋を悪寒が走る。
「くそ・・・・・・」
口をついて出た一言 ――
意識して出したものでは無かった。強化人間とやり合ったことが無い訳ではなかった。だが、それらとは根本的に、何かが異なっていると ――
そう感じていた。
途端、敵が動き出す。未だ火花が迸る左腕を後方へ引き、“カラサワ”を突きつけるように向けてくる。一瞬で後方を確認すると、ブーストで後退しつつ放たれた光弾をかわす。ここから先、終末は巨大なビルに塞がれた袋小路となっていたが、まだそこに達するまでには数百メートルの猶予があった。最悪そこまで達してしまってもビル脇には何とか通れそうな道があったし、途中で分離帯の向こうに移動し、立ち位置を逆転させることも可能だ。袋の鼠となることはまず無いだろう。
“カラサワ”の光弾がさらに三発放たれ空を裂く。どれも機体に直接当たることは無かったが、正面の路面が爆ぜ、植え込みが焼かれ、更にまたビルが削り取られた。ライフルを三点バーストモードに切り替え、応射しつつ後退を続ける。三連で放たれる高速弾とすれ違うのは、小型のロケット弾だった。弾幕を張るように右肩のランチャーからの砲弾が迫り来る。流石に回避しきれず数発を腰や肩に喰らうが、真っ直ぐこちらを追って来ている敵にも弾は命中し続けている。
そして空になったロケットを投棄する際に生まれた一瞬の隙に、もう一方の肩、左肩に装備された同型のランチャーに向けて徹甲を集中させる。見事命中し、ランチャーが大きな音を立てて爆発した。敵機が破片を被りつつ、よろめくその間に分離帯を挟んだ向こう側に移動、さらに移動し一気に背後を取る。煙が晴れると、既に先程から上腕以下を失っていた左腕が肩からごっそり無くなっていた。
気にせず一息に接近すると、左腕のブレードを振るう。二連続で×の字に背を斬り付け、一旦下がる。赤い軌跡が空に焼き付き、コア背部の亀裂から煙が上がった。
「流石に威力不足か・・・・・・」
呟きつつ左のブレードを見やる。以前の物は完全消滅してしまったのでこれを使っているわけだが
――
如何せん、確かに威力不足ではあった。円筒形の小型サブコンデンサが設けられ、そこに若干のエネルギーを蓄えておくことにより、驚異的なリロードの速さで数回連続的にブレードを展開できる代物だったが
――
どうしてもその特性故、単発の威力は低くならざるを得なかった。
背を斬られてもやはり気にした素振りを見せず、振り向くと同時に“カラサワ”がプラズマを吐いた。警戒はしていたが咄嗟のことに反応が遅れ、青い光がコア上部に突き刺さる。その場で青い爆風が巻き起こり、衝撃に機体が飛ばされる。何とか姿勢を保持しつつ不安定な体勢で地面を滑るも、第二弾がすぐ目の前の路面を抉り、その衝撃波が機体をさらに、まるで氷上を往くかのように後退させた。
「っ・・・・・・くそ・・・・・・」
致命傷ではなかったが、コア上部の外装が溶け落ち、頭部センサーの精度も同時に起こったパルスをまともに浴びて低下していた。
「
――
流石“カラサワ”ってか。だがもう終わらせてもらうぞ」
言い放つとライフルを再びフルオートモードに変更、弾倉に残った十数発を黒光りする“カラサワ”目掛けて叩き込む。“カラサワ”が銃弾を喰らうと同時に、敵機はそれを素早く後方のビルへと投げ捨てた。
直後、ビル壁面に激突した“カラサワ”が大爆発を起こす。恐らく残っていた全エネルギーのパワーが一気に解放されたのであろう、電光を伴う蒼い霧の如き爆風がビルの壁を粉砕し、ガラスを飛散させた。さらに銃本体が最後の爆発を起こし、金環食のような蒼輪を幾重にも空に重ね、暗闇を蒼く染め上げた。残ったビルには、巨大なクレーターが形成されていた。
「散り際もあそこまで豪華盛大とは、流石・・・・・・さてと・・・・・・」
皮肉るように言うと、既に表面上は丸腰となり戦う術を失った青い機体に向き直る。実際このような状態になった相手を斬るのは趣味ではなかったが
―― やむを得なかった。
「 ――
悪いな」
全てを放棄したかのように動きを止めている機体に接近、そのコアを深々と赤で斬り取る。機体が、静かに倒れる。その中身を曝け出したコアに一回目を向けるが、顔を顰めると視線を外し、交差点の方へと歩いていく。そこから通りを覗くと、遠くに白煙を吹き上げる、潰れたようになって動かない四脚型ACの残骸と、今まさにそれを成し終ったのか立ち上がる“煌珊瑚”の姿があった。
アオイはそれを認めると肩の力を抜き、彼女の元へ、ゆっくりと歩いていく。
その背後、コアを寸断された青い二脚ACの中にあった“物”
――
それは未だに“人”であり、また同時に、既に“人”を失った“物”であった。
“人”と“機械”の狭間で彷徨するそれは 人外のものであれども、ある意味で“人”の姿を余りにも率直に、余りにもリアルに顕現しているとも、いえた
――
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