ARMORED CORE FAN

アーマード・コアファン

ホーム  > 小説ギャラリー > Artificial Crisis  > 5. #.1 “BLACK BLANK”

闇の中を飛ぶ一機のAC ―― やはりマゼンタカラーに塗られたそれは、渓谷を駆け抜け、一点を目指して突き進んでいた。

―― 結局この時間か。最近は夜行動することが多いな・・・・・・

心の中で、思う。昨夜“隠し家”を出て本拠地に戻り、ACのチェックを済ませここに来るうちに、既に一日が経過し、時は再び深夜になっていた。



夜 ―― アオイは無言でそこを出ようとした。が、後ろから純禾の声が掛かり、応えざるを得なかった。

「 ―― 何処へ・・・・・・?」

振り返らずに、声だけ出して返す。

「機関の本部施設だ・・・・・・これで、“終わり”にする・・・・・・」

「 ―― でも・・・・・・」

ファンタズマの事を言っているのは分かった。そして、もう本部を潰したところで手遅れではないか、と言いたいことも。

「分かっている・・・・・・だがどっちにしても、あそこを放っておくわけにもいかないだろう・・・・・・」

返事は無かった。アオイは、そのまま振り返ることなく、“家”を後にした。そして思う。

これで本当に、“終わり”ということなのか ――



闇を縫うように飛び、“ベッド”に戻ったのは明け方だった。ガレージの中にあったのは完成された一機のACだったが ―― それを見たアオイの第一声は、これだった。

「・・・・・・今に始まったことじゃないが・・・・・・どうもだんだん、AC離れした機体になってきている気がするな・・・・・・」

何がそう言わしめたのか ―― 恐らく最大の原因は、その背にある、アーマーとバインダーを兼ねた、まるでボートのような形状をした四基の“羽”、そしてその元に付けられた、二本の巨大な円柱 ―― 補助燃料タンクだろう。

その後、アオイは徹夜の連続で既にナチュラルハイ ―― と言うか瀕死の状況に突入していたアドヴァントの、“解説”を小一時間聞かされることとなった。因みに他のメンバーは皆最早“死んで”いたが、果たして“解説”する彼にもはっきりとした意識があったのかは、今思えば甚だ疑問ではあった。

あのタンクはA/B機構 ―― アフターバーナー機構を使用する際の燃料が入っているらしい。並みのブースタをはるかに凌駕する速度が出せるらしいが、問題点はその燃費だと言っていた。それがどの程度酷いものなのかは定かではないが・・・・・・少なくとも、そこでわざわざテストをする気にはなれなかった。そんなスペースも無いし、第一そんな派手なことをやらかせば、周囲が異変に感づくに決まっている。

武装面 ―― 肩の武器は、全て取り外されていた。例のアーマー形状の関係で、装備することが不可能らしい。まぁ、それは特に問題ない。そして右のリニアライフル ―― 全体像は以前のものと大差無かった。が、当然細部は変更されている。アオイ自身が注文を付けたのは、冷却機構の中枢部を先端部以外のところに置け、ということだったが、そこはしっかり中間部分に移動させられていた。異様なのはトリガーユニットが銃身の“上”に突き出るように配置されている点だったが ―― 特に疑問ははさまなかった。そうであったところで、特に実害があるわけでもない。
また、弾倉が今までリニア機構の前部辺りから、バレルに対してほぼ垂直に挿し込む形だったのが、後部から水平に近い角度で挿すように変えられていた。これに加え、弾を弾倉に特殊な方法 ―― 縦に長い弾倉に、弾を底面と平行にして詰めていくのではなく、側面に対して平行に、二列で詰めることで、リロードがスムーズになり発射間隔を短縮することができたらしいが、それもどの程度かは、使ってみないことには分からないだろう。

そしてさらに異彩を放つのが、左腕に装備された盾ともブレードともどちらでも言えるような、大型の兵器だった。あれは何だとアドヴァントに聞くと ――

「 ―― あぁ、あれか・・・・・・あれは多機能搭載の可変型ブレードユニット、と言うような物だが・・・・・・実際ほとんど偶然的にできた・・・・・・“オーパーツ”みたいな代物だ・・・・・・」

「・・・・・・何?」

「ブレードの使用は全く問題無いが、他の機能は・・・・・・どれも調整ができていない、というか不可能だ・・・・・・気を付けて使ってくれ」

「そんなことを言われてもな・・・・・・」

流石にアオイも困ったような表情を作るが ―― まぁ、仕方が無い、というような感じで納得してしまった。が、その後も“解説”を聞いていくと ―― どうもこの機体、普通のパイロットならまず乗りたがらないだろう、ある意味でとんでもない欠陥機体のような気配が濃厚となっていった。

まず、A/B機構を搭載したことで、冷却面の強化を図らねばならず、強力なラジエターを三基搭載 ―― この時点で異常だが、さらにそれを運用するためにAGX-00-e/FLUXというジェネレータを載せたらしいが・・・・・・このジェネレータのスペックが、またおかしなものだった。
出力40000、コンデンサーの容量約1000、ほとんどゼロに近いという・・・・・・とんでもないエネルギー垂れ流しの代物だった。ほぼ常時チャージングに近い状態で行動することになるわけだが ―― これだけ高出力ならば、特に問題が無いような気がした。何故こんなものができたのか、あるいは手に入ったのか聞きたいところだったが ―― 既に現実世界に明確な意識を置いているのかすら疑わしい彼に聞いたところで、ろくな回答を得られそうになかったので、諦めた。

そして ―― これが大問題だった。A/B機構がコアの下部をぶち抜くように配置され、それを囲むように三基の巨大ラジエター・・・・・・その他諸々によりコアのキャパシティは限界を超えてしまっていたので、已む無く“装甲”を削ったという。その削り具合は凄まじく、前部のアサルトアーマー、そして後部のバインダーユニットを付けてやっと並程度の装甲厚を確保できる程度らしい。またそのアーマー自体の乾重量も半端ではなく、高出力のブースタを二セット装備してもなお、叩き出せる最高速は以前の機体より僅かに上、という始末・・・・・・最早、言うべき言葉もうまく見つからなかった。だから、率直に疑問を述べた。

「なぁ・・・・・・一体何がしたくてこんな機体を作った・・・・・・?」

元々明確なコンセプト等を打ち出していかなかった自分も悪いのだが ―― それでもいくらなんでもこれは、と思った。だが。

問いに応える者は既にいなかった。他のメンバーは元より、目の前にいたアドヴァントまでもが何時の間にか座り込み、寝始めていた。

アオイは寝るのも仕方ないか、といった風に一つ溜息をつくとその“ある意味で欠陥機”に乗ると、ガレージにあったもう一つの“兵器”を手に、機関本部施設へと向かった ――



本部施設に関しては、サイファーから事前に幾つか情報を得ていた。まず、その入り口を塞ぐ扉の異常な堅さ ―― 積層装甲と強力な緩衝材、鋼板が何重にもされている、どちらかといえば“蓋”といえるような代物らしい。“臭い物”には蓋を、とはよくいったものだが、流石にそこまで厳重に塞ぐ必要も無いのではないか、と思う。
だが現にそれが立ちはだかる以上突破する他ない。その為の、もう一つの“兵器”だった。

アオイは施設近く、小型の倉庫が密集している辺りに機体を降ろす。外の警備は見あたらなかった。それほど“蓋”の防御能力に自信があるのだろうか・・・・・・あちらの内情まではわからないが、兎も角丁度いい“射撃ポイント”を探す。

岩山の下部にある“蓋”を捉え、背後にも十分な距離をとれる場所を見つけ、まるでキャノンを構えるかのように腰を下ろす。ライフルを冷たい地面に置くと、左腕が持つ巨大なランチャーに右手を添えた。その半端でない重量に、機体が軋みを上げる。これが、扉を破る為の兵器だった。

この距離なら特に狙う必要はない。機体を固定すると、すぐにトリガーを引いた。途端、凄まじい爆発がランチャーの前後で起こり、周囲の空気が一斉に震えをあげびりびりと渓谷に反響した。同時に、ランチャー後方から粉々になり飛び出したカウンター・マスの残骸が背後にあった山肌を直撃し、小規模のクレーターを形成する。それでもなお反動を殺しきることはできず脚が後方に滑り、地面が深く抉り取られた。その破片が舞う中、巨大な弾体は宙を突き進み、扉の中央部に突き立つ。

中央部にある超大型のHEATの信管が戸に触れると同時にその周囲に取り付けられた四本のやや小振りなHEAT ―― といっても、“ACの”通常サイズだったが ―― が切り離され、サブロケットに点火、それぞれが“親”に続いて次々と“蓋”に突撃をかけていった。“蓋”に喰らいついた弾体はその形状を変化させ、超高温の爆熱を、その内部へと送り込む ――


内部には、四機の“陽炎”が居た。だが、警戒している素振りは見られない。やはり“蓋”の力を過信しているのか。だから、事態の展開にも、“その時”になるまで気付かなかった。

突如、扉が高温に歪み一気にその中身を爆風と共に吐き出した。拉げた鋼鉄と焼け焦げた緩衝材の流れに圧倒され、声を上げる暇もなく四機は濁流に飲み込まれ、一瞬でその原形を失い、流されていく。炎熱の流れは扉の内側、スロープを下った辺りまで到達し、床を、壁を、天井を焼き溶かし消滅した。

アオイはその様を静かに見届けると立ち上がり、用済みになったランチャーを放棄、代わりにライフルを拾い上げると若干間口を広げた“入り口”へと向かい、ゆっくりと中へ入っていった。

壁面が無残に破壊された通路を下り、奥を目指す。所々天井から溶けた金属が滴っていたが巧みに避け、足元に転がる何かの残骸もかわしつつ進む。破壊部分も終盤に差し掛かると、既に溶かされた壁材も再び凝固し、不思議なアートを其処此処に創り出していた。

下り坂の末端、破壊の爪痕がようやく消えた辺りに扉が見つかる。流石に、入り口のような凄まじい厚みは無さそうだった。それに、扉の横に取り付けられたパネルを見るに、荒っぽい事をせずに侵入することができそうだった。パネルに機を接近させ操作すると、予想通り扉は金属が擦れる音を立てつつ開いた。一旦戸の横、開いているスペースに身を隠すが、内部からの銃撃は一切なかった。むしろ、自機の小さな駆動音以外に音と呼べる音は無かった。しんと静まり返った部屋の中に入る。やはり、中央に太い柱が一本、奥に同じような扉とパネルがある以外、中には何もなかった。

このフロアの守りは、やはりほとんどあの大扉と残骸になっていた連中 ―― そいつらもおまけかもしれないが ―― に頼りきっているのか ―― 敵勢力の無さと、扉のセキュリティの低さを見て、改めて思う。だが、レーダーに目をやると、ここから先はそうもいかない事が目に見えてわかった。下層には、数え切れないほどの反応があり、蠢きひしめきあっている。あれだけ派手に“蓋”を吹き飛ばしたのだ、恐らく中の連中も侵入には既に気付いているだろう。でなければ常識を疑うところだ。そうであるにも関わらず扉のセキュリティがこうも弱いのは、どうも奴らの巣の中に誘われているように思えた。仮にそうだとしても、巣の中で徹底的に暴れてやるだけのことなのだが。

ここで何時までもまごまごしていても如何しようもない、同じように奥の扉を開くと中に入り込む。AC一機がなんとか収まる程度の空間。簡易なエレベーターだった。傍らにあった制御版を操作すると一瞬の振動の後、機体を載せたエレベーターが下降し始める。剥き出しの構造材や壁を走るパイプを眺めながら、底に着くのを待つ。時折微弱な振動を繰り返すエレベーターは微妙な不安材料だったが、それでも問題なく下層に無事その足を着けた。

扉を隔てた向こうから聞こえるのは、あの独特の駆動音だった。途端に周囲がやかましくなったように感じる。多分、一枚板の向こう側には“ナースホルン”が屯しているのだろう。この耳障りな音がそれを示していた。

扉を開くと同時に、右手に持つライフルをそれらに向かって撃ち込む。予想通りそこに居たのは複数の“ナースホルン”だった。一機が頭部を潰され、脱力したように四肢を地に伸ばし、停止する。その右手に居た一機は胴を射抜かれ、数秒足をばたつかせたが、すぐに静かになった。残った二機が搭載された機銃を撃ってくるが、如何せん威力に欠ける。コアを覆うアーマーや、他部の装甲を僅かに傷付けるに留まった。素早く二機も料理すると、先を急ぐ。確かに、リニアライフルの連射速度は向上していた。また、若干だが威力も向上しているように感じた。リニア機構部分は以前のものが生きていたためそれを流用したらしいが、多少なりとも改良されているのかも知れない。

細い通路を進んでいくと、また扉にぶつかった。途中また“ナースホルン”の小隊が現れたが、その末期がどうであったかは後方に残る鉄屑が物語っている。それにしても、扉が多い。防衛機能は高まるだろうが、それでも扉にロックすらかけられていないようでは意味がない。中へ誘い込もうという魂胆ならば、もう少しそこに配置する戦力を強化すべきだろう、と思ったが ―― 思ったところでどうにもならないことは分かり切っていた。第一、これは相手側の問題だ。

またしても同じように扉を開く。が、今度はやや様子が違っていた。奥にある扉まで、一本の道が続いており、その左右は大きく抉られ足下にもう一つの空間ができている。そこから、またあの嫌な音が発せられていた。だが、中にあるのはそれだけではなかった。足を一歩踏み入れた瞬間、頭上から無数の弾丸が降り注ぐ。コアサイドの装甲や、背の“羽”が削り取られる。慌てて弾が飛来した方を見ると、少々大口径の機銃が天井からぶら下がっていた。自分の注意力の欠如を叱りつつ、手早くライフルで砲台を潰す。火花を散らして落下する砲台を背後に、一気に駆け抜けようとするが ―― 中間地点で留まると、奥にも同じように二機設置されていた砲台を撃ち抜き、相変らず耳障りな音を立て続ける下層の機体に目を向ける。

その様に、一瞬気分が悪くなりそうだった。無数の“ナースホルン”がひしめき、ごそごそと動き回っている。まるで小蜘蛛の群れを見ているかのようだった。彼らに搭載されている機銃は、構造上あまり射角を上げられない。そのため下から自機を狙い撃つことはほぼ不可能だ。撃ったとしても、大きくそれるか足場に衝突して終わるかのどちらかだろう。だとすれば、これらは一体何の為にここにいるのか。先の天井砲台の猛攻に混乱した侵入者が転げ落ちた場合、それを取り囲んでリンチよろしく“処分”するのであろうか。それなら一応の説明はつくが・・・・・・だがアオイには、どうもここが一種の“倉庫”であろうように感じた。推論ではあったが、生産、あるいは輸送されてきた“ナースホルン”を一時ここに置いておき、必要に応じて他のエリアに向けて出撃していくのではないかと。そうであれば、足元の機体をいくら破壊したところで、次々新しい個体が投入されてくる
だけであろう。とはいえ流石に物資に限りはある筈だ。倒し続けて機関の戦略物資が底をつくのを見届けるのも一興ではあったが、生憎物資に限りがあるのはこちらとしても同じことだった。それに、そこまで暇なわけではない。
未だ飽きずに蠢き続ける“ナースホルン”達を尻目に、アオイは次の部屋へと移動していった。

道中再び出会った“ナースホルン”を斬り倒し、さらに一機を撃ち抜く。どうも今日は“ナースホルン”とぶつかることが多い日だ。まさかここにはこいつと天井砲台ぐらいしかいないのではないだろうな、と思いかけたが、折れ曲がった通路の影から出てきた“陽炎”によって、その“ある意味での不安”は払拭された。

「・・・・・・試してみるか」

呟くと、左腕を構え飛び出してきた“陽炎”に先端を向ける。レーザーブレードは十分使えることが既に分かっていた。試すのは他の機能だ。先端部、ブレードが形成される根元の辺りから青い、やや不定形な矢尻型の光弾が凄まじい速度で連射される。空を走ったそれは“陽炎”の上半身に集中し、その上で青い屑が幾重にも弾けて重なった。だが、それが晴れた時目の前にあったのは、僅かに装甲が溶けただけの、ほぼ健康体といえる“陽炎”の姿だった。

「この威力の無さは一体・・・・・・あぁ・・・・・・そういうことか・・・・・・」

余りの低攻撃力に驚きつつも、“彼”の言葉を思い出していた。「ブレード以外の機能に関してはどれも問題がある」という。つまりこの“アローレーザー”は、確かに連射速度は驚嘆すべきものがあるが、威力は無きに等しいと・・・・・・一体どう使えというのか。どう頑張っても作業用ロボットである“テックボット”程度の相手しか破壊できそうにない。AC等に使っても、嫌がらせ程度にしかならないだろう。

見た目だけの猛攻に一瞬怯んだ“陽炎”も、機体の損傷が微弱なものであるのを確認するとブレードを展開し、斬りつけてくる。が、そこは冷静にライフルで動きを止めると、反対にこちらの高出力ブレードで機体を両断した。崩れ落ちる“陽炎”の残骸を避け、通路をさらに奥へと進む。と、その時道の横に何かが転がっている ―― というか置かれているのを発見した。

「何だ?これは・・・・・・」

機体を止め、それを凝視する。目の前にあったのは、カラフルな筆記体の文字で「Merry Christmas」などと書かれた蓋のついた白い箱。今は別にそんな時期じゃないよな、と思いつつも、何かに誘われるように蓋を取り外していた。
中にあったのは、深緑色に塗られたランチャー ―― 恐らくはグレネードランチャーだろう、が一個だった。それの発する独特な雰囲気に思わずそれを取り上げてしまう。リボルバー拳銃のもののような形状をした弾倉を確認すると、丁度一発だけ、弾が入っていた。
誰の時期外れも甚だしい“クリスマスプレゼント”かは分からなかったが、折角あるのなら使ってしまおうと思い、空いている左手にそれを握ると立ち上がる。

再び通路を進み始めてからも、何故正体不明のこんなものを拾ってしまったのか、疑問であった。やはり結局その解答は、この武器(恐らく)から発せられ続けている妙な雰囲気、ということになるのだろうか・・・・・・

もう何度目かになる扉開けの動作をすると、目の前に広がったのは一本の立抗だった。下方を覗き込むと、所々に足場がせり出しており、中腹部にも今いる場所と同じような扉があるようだった。最下部では、お馴染みの“ナースホルン”と“陽炎”数体が歩き回っている。まだこちらには気付いていないようだった。

「折角だから使ってみるか・・・・・・」

左腕に持ったランチャーを坑道の底に向けて構え、途中の足場に引っ掛からないよう、射軸を調整する。多少の期待感と共に、一回限りのトリガーを引いた。
途端、轟音が響き砲弾を吐き出したバレルが大きく跳ね上がる。その反動に、機体が僅かだが仰け反りそうになった。その武器としての小ささには、とても似合わない高反動だった。そしてその威力も決して似つかわしいと言えるものではなかった。

爆風が、数十メートルは離れているであろう自機の近くまで、最下部から吹き上がってくる。その中には、数秒前までは別のものだったが、今はもう全てが一体化してしまった ―― 平たく言えば、皆同じくスクラップと化した大小の物体が混ざっていた。途中、爆風の中から“陽炎”のパイロットのものと思しき『ブラザー』というような末期の絶叫が響き、伝わってきたが、余り気にしてはいけないような気がした。

爆発の余韻がやっとのことで収まった後も、暫くの間アオイは左手が持つランチャーを無言で見つめることしかできなかった。正直、何を言えばいいか言葉が思いつかなかった。
天井には「何か」の破片がこびりついているようだったが、それが何かを確かめる気にはなれなかった。心なしか立抗の円周が以前よりも広くなっているように思えたが、やはり気のせいだろう。所々、壁面からパイプや構造材がもげ、地層が剥き出しになっているようだったが、無視することに決める。

アオイはやはり無言のまま“クリスマスプレゼント”を穴の最下部に放り投げると、自らも穴を降りていく。途中、崩壊寸前の足場に乗ると既に扉としての役割を果たしていない「扉だったもの」を潜り抜け、下層の通路へと入り込んでいった。十数メートル先まで、黄白色の残骸が堆積していたが、そんなものに構っている余裕はない。それらを蹴散らしつつ、直線通路を一気に駆け抜けていく。

途中またも出会った“ナースホルン”を移動の勢いも緩めないまま解体処分すると、曲がり角で一旦停止する。角から通路を覗くと、天井には先と同じく機銃が設置されていた。さらに、通路の途中の交差点を、丸みを帯びたフォルムをしたMT ―― “パペガイ”がぷかぷかと浮かびながら出入りしていた。閉鎖空間では、どちらもそれなりに厄介な相手だった。

「流石にガードもきつくなってきているか・・・・・・それだけ最奥部も間近、ということか・・・・・・」

角から左腕だけを出し、ブレードユニットから青白いレーザーを一発放つ。どうやらこれはリロードが異様に長い ―― 約四秒もかかるようだったが、この状況ならそう関係ない。光軸は正確に天井から下がる機銃を貫き、溶け落ちた機材が床で小爆発を起こし、そこを少々焼き焦がした。
続けて全身を通路に晒すと、未だ優雅な哨戒飛行を続ける“パペガイ”に高速弾をプレゼントし、黙らせる。そして、この直線通路の一番奥、そこにある扉が目標の最深部に通じているものと、目星をつける。これは相手側のセキュリティシステムを逆手にとった作戦だった。サイファーから取った情報によると、最深部のメインコンピュータ及び周囲のその他諸々を破壊あるいは不正に手を加えようとすると機密性保持の為、施設全体が時差的に、最深部から崩壊していく仕組みらしい。何ともいかれたシステムではあるが、せめて不埒者を最期に道連れにして果てたいのだろうか。何にせよ、今回はこのシステムをしっかり利用させてもらうつもりだった。勿論、施設と一緒に心中する気は毛頭無かったが。

最大速度で通路を駆けながら、天井砲台を相手の射程に入る前に次々潰していく。後方から追い縋ってくる“ナースホルン”を振り切り、背後に浴びせられる銃弾は無視し、弾倉を交換しつつ半身を開き扉の前に滑り込む。素早く扉を開けると転がり込むようにして内部に雪崩れ込んだ。

その途端、無数のレーザー、ロケット弾、機銃弾が室内を飛び交う。どうやらここが最深部に繋がっているという見方は正しかったようだ。だが、そこにいく前にこの“パペガイ”と天井砲台の巣窟を何とかして突破しなければならない。この狭い空間では、無理に攻撃を回避しようとするより、素早く敵を殲滅してしまった方が得策だろう。手始めに回避行動を取ることが不可能な砲台から叩いていく。

「相変らず“質より量”か・・・・・・」

ぼやきつつ、やたらと数多く配置された機銃を狙い撃つ。単なる砲台でしかないそれらの装甲自体は脆弱極まりない。どれもが一発で大破の道を辿った。
その間にも周囲をふわふわ飛び回る“パペガイ”のロケットやレーザーが装甲を削っていくが、それら一切を無視して砲台潰しに専念する。やっとのことで砲台を片付けると、一気に部屋の対角へ移動、“パペガイ”を反対側の角に取り残す。彼らは敵にまとわりつく習性 ―― というとまるで生き物のようだが ―― があるため、再びこちらに向かって宙を移動してくる。これで敵は完全に的となった。瞬間的な機動力に劣る“パペガイ”の移動速度は非常に緩慢だ。それに彼らのAIにはろくな学習機能も備わっていないようで、眼前の一機が撃ち抜かれ、炎上しつつ床にその身を沈めてもまだ同じように前進してくる。半ば呆れつつも、最後の一機を撃ち、床上に沈黙させた。

「やっと終わりか・・・・・・」

空弾倉を捨て、銃後方に新しい一個を填める。彼らの残骸を踏み越え、恐らく最後の扉へと向かった。そこを今までと同じくして開けると、予想通り中にあったのはぶ厚いガラスケースに入れられた巨大なコンピュータだった。周囲に立ち並ぶ大型サーバを尻目に、その“本体”へと歩みを進める。

「これに意味があるのかどうか・・・・・・」

呟きと同時にブレードを展開、一刀の元に正面のコンピュータを斬り伏せる。溶解したガラスが泡立ち、床に垂れて熱い流れを形成する。一瞬の後、その“本体”は爆発、四散した。飛び散った熱波とガラス片に機体が傷付けられたが、大した損傷ではない。それより、呆気なかったな、という気持ちの方が思考の大半を覆っていた。だが、先に言ったように、この行為に本当に意味があったのかどうかは、わからなかった。既にあの兵器が完成しているとすれば ―― 結局後顧を絶っただけで、残ったそれを破壊しなければ意味はない。

何故か憂鬱な気分になっていると、突然部屋の明かりが消滅した。一瞬現れた黒い狭間に、アオイは機体を旋回させ、“出口”に向かって進み始める。既にわかっていた。“それ”が来ると。

「 ―― とっとと撤退だな・・・・・・こんな無機物との心中は、御免だ」


黒い闇の次に出現したのはやわらかい白の光ではなく、その目を、その全てを貫くような、絶対的な“赤”だった ――

 

 

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