ホーム > 小説ギャラリー > Artificial Crisis > 5. #.2 “DESERT IN THE BLACK DESERT”
赤色灯の光を背に浴びつつ、先程通った通路を、今度は逆方向 ――
即ち“入り口”の方に向かって、直走る。既に最下層の通路、その七割方は戻ってきたが、何処から湧いてくるのか、またしても道中“ナースホルン”等々の相手をしてやらねばならなかった。流石に破壊済みの天井砲台については、再び新品が配置されている、ということはなかったが。もしそうだとしたら末恐ろしい
――
というか、そんなことをする余裕があるならメインコンピュータの防衛にもっと人員を割くべきだろう。もっとも、今更そんなことを論じても何の意味もなさないが。
「完全に“質より量”か・・・・・・いい加減鬱陶しくなってくる・・・・・・」
お馴染みの四脚兵器を撃ち飛ばしつつぼやく。もっと多様な兵器が出てきてくれれば多少は新鮮味も感じられるというものだが
――
残念ながら、この施設内には、“ナースホルン”と“陽炎”、そして天井砲台以外のモノは存在していないようだった。そしてどれも強力な兵器、とは言い難い代物ばかりだ。こんな閉鎖空間に大型兵器を持ち込むのは不可能だろうが
――
それでももう少し何とかならないものか。
感慨に耽りつつも立ち塞がる物体を排除していき、例の立坑まで到達した。入り口付近の壁が抉れ、やはり近くに鉄屑が堆積していることから、ここで間違いないだろう。弾倉を換えつつ内部に躍り出ると軽くブースタを吹かし、上部の横路を目指す。やはり再装填されていた敵機が下方から猛射をかけてきたが、当たったところで大した被害は出ないだろうし、それにあの“ナースホルン”である。先に言ったように、上方攻撃には向いていない。ばらばらと飛んできた機銃弾も、その大半が壁や突き出た足場を削るに留まった。
何にともなく溜息をつきつつ、通路の内部に再び入っていく。間近に敵がいるのは既にわかっていたので、身構えながらの侵入だった。そこに立つのがブレードを振りかぶった“陽炎”であるのを確認するや否や、こちらも左腕を機体の前に出す。この一際狭い場所では回避はほぼ不可能だ。ならば、これで受けるまでだ。
ブレードの後部から中間部にかけての全面が僅かに伸展し、あの機体に装備されていたシールドと酷似した、青い透明色の薄膜がそこに展開される。深海のような青である中央部から周辺部へと、蒼いエネルギーの膜が拡がり、そこが同じく青をしたブレードを受け止め、その脅威を拡散させる。スクリーン展開時から左腕の内部温度が異常に高まっていたが、気にしてはいられない。受け止めたとはいえ、それだけだ。それで敵のブレードを使用不能にしたわけではない。敵が動けないこの瞬間、このまま極めるべきだ。
「微妙に不安だが・・・・・・仕方ない」
先程伸展した面がさらに押し広げられ、青が一瞬にして勢力を増した。刹那の後には中央部に収束し、不可視の“波”として前方向
――
つまりは“陽炎”の居る方向に向けて、放たれ、進行距離に相まって拡散する。
機体を襲ったのは凄まじい衝撃だった。左腕が許容範囲限界まで後退させられ、脚自体も後方に滑る。危うく、背後の坑の底に逆戻りするところだ。だがその代償として、眼前の“陽炎”もまた、凄まじい状態に変貌していた。それの直撃を喰らった胸部とその周辺部は大きく陥没し、丁度爆心にあったコアに至っては、三角形をして飛び出していた装甲が見事に逆方向に押し潰され、限界に達した継ぎ目からは内部構造が露出していた。当然、内部の搭乗者も機体と同じ運命を辿っただろう。そしてさらに驚くべきは、その機体自体が十メートルは向こうに弾き飛ばされていることだった。
「何だ、これは・・・・・・」
その威力に驚嘆しつつも、アオイは不審げに機体の左腕を見やった。これは確かに強力だったが
――
乱発すれば、間違いなく腕が吹き飛ぶだろう。それほどまでに反動も激しいものだった。
「スクリーン機能にしてもこれにしても・・・・・・どうにも欠点だらけだな・・・・・・」
何ともいえない表情で呟くも、一刻も早くここから出る必要があることを思い出すと、舌打ちしつつ再び移動を開始する。既に下層からは微かではあったが、爆発音のようなものが聞こえていた。恐らくあの最奥の部屋から、徐々に崩壊が進んでいるのだろう。最下層の主要な構造が破壊されれば、一気に施設全体が連鎖的に崩壊しかねない。各層が独立して造られていれば一気にそれが来ることはないだろうが、どちらにせよ急ぐべきだ。
回廊を突き進み、湧き出す障害を打ち崩し前進し続ける。ほとんど回避行動はとれなかった。単体としてのダメージは小さいが、確実にそれは蓄積されていく。特に背後への被弾は痛かった。左右二対、計四枚のバインダーアーマーによって保護されているとはいえ、そこに装備されている大型タンクはこちらにとっても危険な代物だった。タンク自体もそれなりの装甲能力は備えているとはいえ・・・・・・やはり損傷の蓄積にはそう耐えられないだろう。
焦りが雑な機動を招いているとも言えなくはなかった。崩壊の前線はこちらの移動速度より、確実に速く近づいている。これでもうすでに何十体目かの“ナースホルン”をダッシュしつつ左手に青刃を展開、斬り飛ばすと、そこでやっとエレベーターの前に辿り着いた。
その時、一際大きな振動が施設全体を襲う。深部の崩壊が一気に全土に連鎖することは無かったようだが、やはり伝播はしていたのだろう。背後、遠目に見える通路の端は激震によって既に塞がれていた。そして、連続する爆発が壁を伝い、波打ち、こちらへと施設を飲みながらやってくる。
「くそ・・・・・・速いな・・・・・・」
ライフルを連射し今度ばかりはしっかりとロックされてしまっていた扉を破壊する。残骸となった扉の下部を蹴り、破片を散らしつつ中へと入り込む。しかし目の前にあったのは昇降板ではなく、剥き出しになったシャフト下部のみだった。
「ご丁寧にエレベーターは上昇済みか・・・・・・こういう時だけ行動が的確だな」
揶揄するように言い放つとシャフト内を跳び、銃口を上向け弾倉が空になるまでリニアライフルを撃ち続ける。頭上の、行く手を塞ぐ昇降板に向けて。次々と波紋を残し、空間を走る高速弾は障害物を打ち削り、火花を散らした。そして残弾が無くなるとほぼ同時に板の支えは限界に達し、崩壊しつつ落下してくる。壁面と擦れによって起こされた金属のけたたましい悲鳴が耳につく。迫るそれをブレードで一文字に両断するとそのまま足下に見送り、自身は上部の扉を再び叩き斬り、通路内に転がり込む。出口、すなわち脱出口はもう目前だったが、崩壊もすぐそこまで迫っていた。先程斬り落とした昇降板も、すぐさまシャフト下部を飲み込みつつあった炎と同化していっていた。
機体を滑らすようにして直線路まで出る。出口の大扉は既に侵入時に破壊してあった。流石にあれが復活しているということはないだろう。
「折角犠牲を払ってまで搭載した機能なのだからな・・・・・・」
使ってやるべきだろう、今。既に直角の通路を中ほどまで、爆発は突き進んでいる。恐らく、施設の中でも残っているのはこの場のような外郭だけだろう。もっとも、この出口付近が未だほとんど崩壊していないこと自体、奇跡と言えたが。
四枚のバインダーを上方向に展開し、それによって蒼に塗られた二対の大型タンクが露になる。コア下部に設けられたインテークのシャッターを開放し、予備加速を開始する。吸気口周囲の大気が急速に押し縮められ、吸い込まれる。堆積していた埃がその力に浮き上がり、僅かに舞った。吸気に伴い、直角に角度調整された四基のブースタから吐き出される青の勢いが徐々に強まり、残滓が後方へと尾を引いていく。そして加速と吸気速度が最大に達すると同時に、一気にタンクに収められた物体が燃焼され機体が、背後にまで迫った爆炎から逃れるようにそれを掻き分け、飛び出す。その瞬間、凄まじいまでのGがアオイの全身を覆った。
周囲の大気が高速機動体に扇動されて打ち震え、施設の内張りを僅かにだが形状変化させていく。コア背後から伸びる四本の蒼光は機体の全高近くまで伸長し、まるで巨大な羽であるかのようにも見える。既にその色は蒼を超え、無色に近くもなりつつあった。
遂に機体は施設外に飛び出し、その後を追うようにして爆風が突き出してくる。しかしそれが“天風”を捉えることはなかった。襲い来るGの嵐に意識を揺さぶられつつも、眼前に対岸の崖が迫るのを見逃すことはなかった。通常なら全力で衝突するであろう距離と速度だった。しかし、ブースタに装備された強力なスラストリバーサーを使用することで蒼光は徐々にブースタのサイドから機体前面側へと抜けていく。最後に機体の背後で青い残滓がリング状に弾け、岩壁へと激突する寸前で機体は押し留められた。またも強烈なGが襲い掛かるが、それにも耐え、機体を着地させた。
「こういう状況を想定していたのか・・・・・・何にせよ、至れり尽くせりだな・・・・・・」
ふらつく意識をはっきりさせようと勤める傍ら、タンクに残った燃料の残りを確認する。そこでまたも溜息が漏れた。既に残量は半分を切っている。実際に使用していた時間は十秒にも満たなかった筈だ。どちらにしても、二回程度しか使えないということか・・・・・・
ついでに、跳ね上がったコアの内部温度、特にA/B筒の冷却にラジエターは躍起になって活動していた。
それはいいとするとして、またしても新たな問題
――
というか障害が到来する。訪れはすぐ横の岩壁へのロケット弾の炸裂によって告げられた。
「またあいつらか・・・・・・もう根拠地自体は潰れたってのにな・・・・・・どうあっても帰さないつもりか・・・・・・」
黒煙を吹き上げ、既に入り口付近も原形を留めていない施設を背後に、見慣れた“陽炎”の機影が幾つも降り立つ。皆何故か異様に戦意が高揚しているようで、ランチャーから砲弾を撃ち出しつつ積極的に接近してきていた。
周囲に次々とそれが着弾する中跳び上がると、既に弾倉交換を済ませたライフルを“陽炎”達の群れに撃ち込んでいく。兎も角、さっさと終わらせてしまいたかった。
数機を撃ち倒すと一機の眼前に着地し、それをブレードで二つに割る。だがその背後から続けて他の一機がこちらと同じくブレードを出しつつかかってきた。先と同じような状況だな、と思いつつも、相手がこちらの右手を狙っている
――
すなわち武器の使用を封じようとしていることに気付く。刃の擦過に合わせて退きつつ、右手を開きライフルを手離す。こういう時、グリップが銃上部にあると何の障害もなく武器を落とすことができる。総重量の軽くなった右手は一瞬跳ね上がり、その下をブレードが通っていく。その熱に腕が少々溶けたが、斬られることはなかった。
地面を跳ねるリニアライフルの上、ブレードを振り切った“陽炎”に左腕を突きつける。ブレードの前部の構成パーツが二つに割れ後方に大きくスライド、前面に巨大な暗い砲口を形成する。そのまま敵に何らかのアクションをとらせる前に、エネルギー体を叩き込んだ。
高く余韻が間延びするような発射音と共に、青いエネルギー弾が電光の靄を纏い射出される。“陽炎”の胸部装甲に命中したそれは、周囲に蒼の波紋を撒き散らしつつそれをいとも容易く貫通し、丁度背後に居たもう一機を同じく破壊し、さらに後方に居た二機をも一気に射抜いた。尚も勢いを止めない弾体は空間を疾駆し、崖に当たり巨大なエネルギーの嵐を残すと、漸く沈静化した。都合四つの蒼を空間に残したそれ
――
エネルギーカノンの威力は凄まじかったが、やはりその代償も大き過ぎた。
確かに四機の“陽炎”はただの一発で物言わぬ屍と化していた。が、こちらへの影響も甚大だった。発射直後に砲口は再び閉じられ、内部に冷却材が注入されていたが、それでも尚左腕及びブレード本体は異常温度に達していた。ブレード後方からは冷却材の一部が白霧となって立ち昇り、また一部は液化したまま地面に落ち、そこを小規模な氷土といていた。
舌打ちしつつ落としたライフルを拾い上げると、残った“陽炎”数機の始末にかかる。エネルギーカノンのチャージ
――
準備状態を示すバーが一杯になるには、目測で五分はかかりそうだった。もっとも、弾数自体二発しかないのだが。もし専用の冷却材を搭載しなければその分倍載せられるとアドヴァントは言っていたが
――
そんなことをすれば、いざそれを放った時にどうなるかは自明だった。
最後の“陽炎”を撃ち抜くと、未だに何を糧にか崩壊し続ける施設をちらりと見やり、それから背後へと視線を向ける。
そこにあったのは、桜色とマットブラックに塗り分けられた機体
――
“煌珊瑚”だった。存在自体には先から気付いていたが、何時の間にここまで接近されていたのかは分からなかった。“陽炎”の相手をしていたというのもあるだろうが、やはりステルス機能の為か。
「
――
終わった・・・・・・のね・・・・・・」
彼女は静かに口を開く。アオイはそれに、何故か、何処か苛立ったように返す。
「あぁ・・・・・・終わった。一応はな・・・・・・」
それだけ言うと、彼女の機体に背を向ける。そちらが、丁度“ベッド”に向かう方角だった。そして、今度は微妙に躊躇いがちに言い放つ。
「お前・・・・・・あの時“意味がわかるか”と言ったな。
――
俺はお前を殺さない・・・・・・それが俺の“答え”だ」
彼女はそれに対して何も応えない。だが、何らかの感情を、それこそ非常に複雑なものを抱いているのは感じた。
ブースタを始動させながら、背後を一瞬振り返る。そこには、ただ立ち尽くすだけの純禾の機体が
――
否、彼女があった。
何かに引かれるような違和感を覚えつつも視線を引き戻し、そのまま機体を浮かせ、渓谷を飛び過ぎて行く。
これで全てが終わったとは思えなかった。色々な意味、事柄の上で。
だが
――
もう既に全てが終わってしまったたような、まるで全てに見捨てられたような、そんな表現しようのない空虚感だけが、いつまでもそこに、残った ――
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