ホーム > 小説ギャラリー > 死神と天使第一章-漆黒の中の光 第八話-
「ふ〜。」
一つ小さなため息をつくとソファから立ち上がり、キッチンの方に歩き出す。腹が減っているので、おそらくもう昼だ。人間、腹が減ると思考能力が下がる。それに寝起きというものが重なり、変なことを考えてしまったのだろう。自分で勝手に満足した結果を出すと、キッチンの周りをあさりだす。色々なところを探してみるが、食えそうなものはない。冷蔵庫には水しか入ってないので見るだけ無駄だ。冷蔵庫の横に置いてあるダンボール箱の真ん中の箱を取り出す。
(確かこの中にインスタント食品が・・・)
箱の中を見てみるが、そこには缶詰ばかりが入っている。
(こっちか・・・)
上の箱も見てみるがやはり入っていない。結局全部の箱を開けてみたが、どこにも入ってない。
(・・・全部食ったか?)
そうとも思ったが、数日前までは確かに入っていた。更に周りを探してみるが・・・
「・・・何してんの?食べものでも探してるの?だったら私がそこら辺整理しておいてあげたから。それにしても、もっと栄養のあるもの食べなきゃ駄目だよ。」
とツカツカと近づいてきて、冷蔵庫の戸を開ける。中には何故かインスタント食品が・・・。
「こんなんばっかり食べてるから・・・アレ?筋肉あるね・・・。」
と俺の腹をポンポンと叩いてきた。うちではあまり食べないだけで、ろくな飯は食ってるつもりだ。それに毎日筋トレもしている。これは昔からの習慣だ。
「それにしても何もないねえ〜今朝のものでいっぱいいっぱいだったし・・・。一体何を食べろっていうのよ・・・。」
冷蔵庫の中身を見ながら、少し険しい顔をした。それは俺の家の冷蔵庫だ。
「じゃあ何か食べに行こっか。」
目をキラキラさせながら俺を見てくる。俺もそのつもりだったのだが、コイツがいることを計算に入れていなかった。顔は余り知られている方ではないが、名前はよく噂されるほどにもなった。“死神”と。なのであまり大勢の中に入るのは気が引ける。コイツがいるからだ。何を言い出すか分からないので素性がバレる可能性が高い。仕事柄、人から怨みを買うことが多いので何が起きるか分からない。そういう危険はできるだけ回避するのが得策といえる。
「早く行こうよ〜。」
グイグイと俺の腕を引っ張るが、俺は行くつもりがなくなったので動こうとはしなかった。
「ピーピー」
その時、部屋の中に設置されている通信端末が鳴った。俺はフリアの手を振りほどくと端末の表示を見た。―175-332-675―よく見る番号。店の主人からだ。受話器をとり個人通信モードにする。
「―カイルさんですか?今からそっちに行こうと思うのでお願いします。それにしても個人通信にするなんて珍しいですねえ。誰かいるんですか?」
一瞬フリアの方を見るが、そんなことを言ってもしょうがない。
「・・・いや。」
「そうですか。失礼しました。プライベートなことまで私が干渉する権利なんてありませんからね。ではこれから行きますので。」
主人が通信を終えようとしたが、
「あ・・・ちょっとすまないが・・・」
「・・・はい?どうしましたか?」
ちょっと間があってから返答があった。
「その・・・来る時に・・・飯を少し頼む。」
「飯・・・食べ物ですか?」
少しきょとんとした様子で聞き返してくる。当たり前の反応ではあるが。
「金は払うので・・・少しでいいので頼む。」
「・・・ええ。まあ勿論いいですけど、あまり期待はしないでおいてくださいね。」
「・・・スマン。」
「いえいえお安い御用ですよ。それでは30分ぐらいで行きますので、また後ほど。」
そういうと通信は切れてしまった。我ながら何を言ってるのだろうと思った。
何故ACパーツ屋の主人に飯を買わせているのだろうか。考えてみても既に言ってしまった後なので仕方が無かった。
ふと横を見ると、会話を聞いていたと思われるフリアが嬉しそうな顔をしている。
「何?宅配サービスでもとったの?とりあえずご飯食べれるんでしょ?」
と、腹を空かせた子犬のようにパタパタと尻尾を振っている・・・ように見えた。
俺は何も答えずにソファに座り込む。フリアも依然そのままで目をキラキラさせながら俺のすぐ横に座った。
(そんなに腹が減っているのかコイツは。)
しばらく何もしないでいたが、ずっと俺の方を見ているフリアの視線が嫌になったのでテレビの電源を付ける。すると右上に時刻が表示される。―12:04 1時間ぐらい寝ていたということだろう。丁度ニュースをやっている。
『―1年前に法律で禁止された“強化人間”についてですが、クレストでは研究が未だ進められているということでOAEの使節団が立ち入り検査を検討しています。これに伴いクレスト社は、「研究は人類に大きな功績を残すためのものだ。」と、研究続行をする主張を示しました。これについてミラージュ・ネイルズ両社は―』
―強化人間。人間の肉体を薬物や肉体改造を行うことで、極限の能力を得た人間である。強化人間はレイヴンに多く、その能力はまさしく尋常ではない。1年前に法律で禁止はされたものの、今でもアリーナの上位ランカーは強化人間手術を受けた者が多い。1年前以前に手術を受けたものは元に戻ることができないからだ。それについても研究が進められているが、手術に伴う大きなリスクは今後も消えないとされている。そのリスクとは身体障害や極度の肉体疲労・人格崩壊など幅広く、必ずしも自分に有益とは限らない。企業と専属契約をしているレイヴンには、強制的に手術を受けさせられるケースもある。過去には専属契約していた上位ランカーが企業に反発し、クーデターになったこともあるほどだ。
しばらくニュースを見ていると、玄関のインターフォンが鳴った。時計を見ると12:37 おそらく主人だろう。俺がソファから立ち上がり玄関の方に歩きだそうとすると
「ご飯ーご飯ー!」
とフリアが一目散に走っていってしまった。
「おい!待て!」
俺の静止の言葉など聞こえておらず、そのまま走っていってしまう。そして、そのまま玄関の戸を開けようとする―
間一髪で間に合いフリアの手をドアノブから振りほどくと、右腕を彼女の背中から右腕の下に回し、そのまま口を塞ぐ。そしてそのまま右肩の方に近づけ、動きを固めた。
「んーんー!」
すごく暴れているが、ここで出られては何かマズイ気がしたので手を離すわけにはいかなかった。
「・・・どうかしたんですか?カイルさん。」
ドアが少し開き、覗き気味に主人がこちらを見てくる。
「・・・何でもない。」
「?そうですか。ならいいのですが・・・あ、これカイルさんが言ってたご飯です。」
上げた右手は袋をぶら下げており、その中に四角いケースがいくつか見えた。
「・・・色々スマンな。」
「いえいえ。では私はガレージの方に車を入れておくので。」
とその袋を俺に渡すと、そのまま車の運転席の方に歩いていった。
「・・・ふー」
戸を閉め切ったことを確認すると大きくため息をこぼした。
「んーんー!」
気付くと未だにフリアはもがき続けている。慌てて右手を離すが
「ふう〜・・・アンタ私を殺す気?」
かなり怒った声で俺の耳元で叫ぶ。
「・・・スマンな。」
それだけ言うとリビングの方に戻り袋の中身を見た。
「ちょっとー!」
ほっぺたを膨らませながら小走りでこっちに近づいてくるが、袋の中身を弁当と確認すると
「何?お弁当?よかった〜どうやらマシな食べ物が食べれそう!」
と、さっきのことなど忘れたように嬉しそうである。
こういう表情がコロコロ変わるところを見ていると、小動物―いやまだ幼い子犬のようだ。
「ふっ・・・」
それを見ていて思わず笑ってしまった。
「何よ?なんかおかしい?」
とまた不機嫌な表情。だが、不思議とその表情に安心できた気がした。
「いや・・・なんでもない。」
そういうと弁当をテーブルの上に置き、一人ガレージの方に歩き出した。
「あ、もう作業進めちゃってますよ。」
主人は大型トラックの荷台から大変そうにシートをめくっていたところだった。
「悪い。俺も手伝う。」
それだけ言うと荷台に上り、シートを止めてある金具を外していく。
最近では輸送中のパーツの奪取などの事件もあり、トラックではなく輸送用装甲車を使う場合が多いが、主人が金銭的に不自由していることは承知の上だ。そこまでは期待できない。
すべての金具を外し終えるとシートを勢いよく荷台の下に降ろし始める。シートの上からはただの突起物にしか見えなかったものが、シートがなくなるにつれその全貌が明らかになっていく。
初めに見えたのがNB12W-WINGであった。思った以上に大きめの外見で、少し不安に思う。勿論のこと、表面積が広ければ広いほど被弾する可能性が高い。これだけの高い買い物だ。そう簡単には壊したくない。
「早速作業に入りますか。」
そういうと、ガレージ内にある作業用クレーンを動かし始める。俺なんかより慣れた手つきでクレーンはすぐに右側の部分を持ち上げ、そのままACのコア背中部分まで持っていく。外すのは簡単だが、付けるのには相当の腕がいる。なので、大体は業者にやってもらうのが当り前だ。パーツをコアの部分に固定させると、近くに作業用階段を持ってきて昇り始める。そして、階段の最上部でパーツに手が届く。パーツを少し押し付けながら下にあるボタンを押す。するとパーツ内からロックがかかり外れなくなるのだ。主人は階段から降りると手っ取り早く左側も同じことを行う。・・・俺はただその作業を腕組をしながらずっと眺めているだけだ。
10分後には両方付け終え、バニンシングドライブには新しく羽が生えたようだった。
「NB12W-WINGは付け終えたのでCR-WR93RLはそこの一番上に置いときますね。」
指を指した先にはAC用の武器がおいてある巨大な棚のようなところ。俺は勝手にピットと呼んでいるが・・・これも昔からの癖なのだ。
主人はまたクレーンを動かし、シートに包まったままのCR-WR93RLをピットの一番上に置こうとする。ピットは4段ほどあるが全部埋まっている。他にもピットはあるが、この機体でよく使うものだけをここに置いてる。あるのはアサルトライフル(CR-WR76RA)・スナイパーライフル(WH02RS-WYRM)・マシンガン(WR07-PIXIE3)、それで一番上に今回のCR-WR93RLが加わった。これだけあれば十分なほど仕事はやっていける。ちなみに常時腕に武器を装備しているのはあまりよくない。腕部に負担がかかる上に機体のバランスが悪くなるからだ。なので、俺は出撃前に装備するようにしている。
「いやあ、ありがとうございました。」
主人がペコリとこちらに挨拶してくる。
「いつもスマンな。」
こちらも軽く頭を下げると、申し訳なさそうに言った。
「いえ、そんなことないですよ。カイルさんはお客様なんですから・・・それにカイルさんは私に対して少し謝りすぎですよ。私にできることなら喜んで支援させていただきますから、気にせずに言ってもらって結構ですよ。」
いつものあの笑顔で当然のように言ってくる。
「分かった・・・今度から気をつける。」
軽く笑い飛ばし片手を上げた。
「はい。それではまた今度の機会に。」
と主人も片手を上げるとそのままトラックに乗り込み、軽く会釈をしながらガレージから出て行ってしまった。しばらく後姿を見送った後ガレージのシャッターを下ろす。下ろすと言っても自動なのでどうということはない。そして新しいバニシングドライブをもう一度確認した。
「・・・今後も頼むぞ、相棒。」
と機体の脚部、丁度人間でいう足首ぐらいのところをグーで軽く叩く。勿論反応はないが、ただ自分の拳に金属の硬さと冷たさが伝わった。
「ぐー」
丁度いいぐらいに腹の虫が鳴った。確かに昼はまだだ。急いで昼飯としよう。
そのまま家の中に入ったはいいのだが・・・
「ん・・・ん?」
おそらく置きっぱなししておいたはずの弁当が入っていた袋がそこには置いてある。袋を持ち上げてみるが勿論中身は入ってない。
(・・・アイツ全部食ったのか?いや、まさか・・・。)
少し不安になったので2階の彼女の部屋の戸をノックしてみた。するとすぐにフリアは出てきて
「ん?にゃに?」
見ると左手に弁当箱・右手に箸をもち、口をモゴモゴさせながら出てきた。
「・・・弁当・・・」
俺は半分唖然とした状態で聞いたが、食べ終わるまで返答はなかった。そして
「ああ、このお弁当ね。ちゃんと残してあるわよ。当り前でしょ。」
「・・・」
「何?・・・どこにあるかって?それならちゃんと冷蔵庫の中に入ってるわよ。」
冷蔵庫・・・また冷蔵庫か。どうもコイツはなんでも冷蔵庫に入れる癖があるようだ。
キッチンの冷蔵庫を開けると確かにそこにはぎゅうぎゅう詰め状態の弁当箱が4つあった。
(5つも持ってきてくれたのか・・・結局金を払い忘れているし、今度会ったときに礼をしないといけないな。)
1つだけ取り出すと椅子に座り、一人食べ始めた。時間を見るといつの間にか1時を回っていた。
しばらく静かに飯を食っていたのだが
「あ、食べてるの?結構美味しいよこの弁当。また貰ってきてね〜。」
見るとフリアが階段の上から両手に弁当の空箱を思われるものを持って降りてきた。
しかしその手には確かに弁当箱が2つ・・・2つ食ったのか?
ジロリとフリアの方を見ると
「ん?何?お弁当?ああ、あんまり美味しいから2つ食べちゃった。てへ。」
いや「てへ」じゃないだろ。彼女は凄く嬉しそうな表情をしているが、流石にこの量を2つはかなりきつい。正直俺には無理だ。
彼女は何事もなかったように空箱をゴミ箱に入れる。
「じゃあ私ガレージに行ってるから。」
と言うと俺の返答など聞く前に外に出て行ってしまった。・・・ガレージ?ガレージに何か忘れ物か?ガレージには俺のACしか置いてないはずだが・・・。
何か嫌な予感がしたので、急いで飯をたいらげ駆け足でガレージに向かった。
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