ホーム > 小説ギャラリー > 死神と天使第三章-堕ちゆく世界 第五話-
シミュレーターから出て廊下にある自動販売機で缶コーヒーを2本買って1本を彼女に渡す。
「ありがと。ふふふ・・・分かってるじゃないの。」
すぐ横のベンチに座り缶コーヒーのプルを引き上げる。
プッシュっといい音がなり、僅かに開いた蓋からはほのかに湯気が湧き上がる。
「ふう・・・んっ!」
彼女が何か言ったかと横をちらりと見るとそこには缶コーヒーを口に当てたまま、
天上をつくような格好をしながらコーヒーを飲んでいる姿があった。
「ぷはあ!やっぱコーヒーは一気飲みに限るわ!」
そのまま一気に飲み終わると、空になった缶をバスケットボールのシュートのように空き缶入れに投げる。
「ナイッシュッ!・・・ん?どうしたの?」
俺の視線に気づいたのか目線をこちらに向ける。
「・・・いや。」
俺は視線を缶コーヒーに落とすと、まだ一口も飲んでないコーヒーを少しずつ飲み始めた。
「んん・・・まあ20点ぐらい?」
「・・・え?」
「あなたの点数よ。全体として20点ね。まあ突っ走りだけは90点かな。」
と少し微笑んだ表情を浮かべながら彼女はそう言った。
「・・・そうですか。」
「あと顔も80点かな。」
「え・・・?」
俺が顔を右に向けると、ふと彼女と目線が合った。なんだか吸い込まれそうなほど綺麗な瞳をしている。
彼女は何故か優しく微笑んだように見えた。
俺が慌てて目線を外そうとすると、いきなり彼女が腕を俺の首の後ろに絡ませてきた。
俺は何が何だがよく分からなかったが、そんなことはお構いなしで彼女の顔がこっちに近づいてくる。
俺は頭を後ろに引いてるのだがそれでも距離が詰まっていく。自分でも顔が熱くなっているのが分かった。
そして彼女の顔がお互いの鼻息を感じるぐらいまで近づいた。
「なーんてね☆冗談よ、じょーだん。」
と、彼女は俺の鼻を人差し指で押さえながら顔を引いた。
何か馬鹿にされているような気がするような、子供扱いされているような気がした。
「顔真っ赤じゃん。そんなに照れちゃった?」
と微笑みながら、というよりは悪魔の微笑を浮かべながら言ってきた。どうも年上の女性というのは苦手なタイプらしい。
相手のペースに飲み込まれているような気がして・・・。
「ここにいたのか。」
ふと通路の奥から声が聞こえた。彼女が振り返り、その声の主を見る。
「マックス。いいとこに来たわねー。」
マリアはベンチから立ち上がり、小走り気味にその男に向かっていく。
そしてその男のすぐ横までいくと、男の肩に両手を乗せ耳元で何かを言い始めた。
「・・・」
俺はその状況を見ているしかなかった。
ふと、男の口が少し右上がりになったかと思うと
「フン・・・」
と鼻で軽く笑った。マリアの言っていることが何なのかは分からないが、俺のことであることは確かなようだ。
マリアの口が男の耳元から離れると、男はそのまま俺の方へまっすぐ歩いてきた。
「お前が・・・カイルだったな。」
「・・・ええ。」
男は俺の1mと離れない位置まで来ると、そう言った。
「お前のことは前から知っていた。今後も期待しているぞ。」
それだけ言うと男は振り返り、マリアのいる方向へと歩き出した。
呼び止めようとしたが、何と言えばいいのかまったく頭に浮かんでこなかった。
男がマリアと共に歩き始めようとしたとき、男がこちらに振り返った。
「そうだ・・・俺の名前は・・・マックス。これでもレイヴンだ。」
男はそれだけ言うと、再び歩き出そうとする。
「あ・・・」
「ん?」
俺のふとした言葉に反応して、また振り返る。
「レイヴンネームは・・・?」
「ああーそうだな・・・。」
男は面倒くさそうに後頭部をかきながら答えた。
「・・・インフィニティだ。」
その言葉を発した瞬間、彼から物凄い殺気とオーラを感じた。これがトップランカーなのかと、一瞬思ってしまう。
「では・・・また会おう。」
彼はそれを言うと、マリアと共に廊下の奥へと消えていった。
その背中からは確かな闘志と、殺気しか感じられなかった。
ガレージに戻ると、バニシングドライブの横にあったリミテッドシリンダーの姿はなくなっていた。
損傷箇所も少なかったようだったので修理も早く終わったのだろう。
「あー!ここにいたー!」
ふと後ろから声が聞こえ振り向くと、そこにはフリアが呆れた表情をしながら立っていた。
「まったく・・・子供じゃないんだから、チョロチョロどこかに行かないでよ。」
「・・・」
お前は俺の保護者でなければ何でもないのだ。そんなことを言われる筋合いはない。
「今日はどうすんの?またここで寝てくの?」
「・・・ああ。」
どうするか何も考えていなかった。俺としては明日もまた仕事が入っているので今日もここにいてもいいかと思っていた。
「私としては家に戻りたんだけど・・・。」
「・・・そうか。」
と俺は上着のポケットから家のIDカードを出す。そして黙って彼女の前に差し出した。
「え?何?私一人で戻れってこと?呆れた・・・。」
とフリアは頭を傾け上を見てしまった。
「・・・違うのか?」
「違わないけどさあ・・・まあいいわ。」
フリアは俺からIDカードを静かに取ると、そのままそそくさとACの方に向かっていった。
俺も特にこれ以上何もないので、仮宿舎に戻ろうとした。だが
「あー!やっぱちょっとたんま!」
「・・・あ?」
俺が振り返ると、フリアは早歩きでこちらに向かってきていた。
「やっぱあんたも家に戻るの。」
「・・・は?」
「あの家はあなたの家でしょ。それに夜乙女一人なんて・・・不安で寝れないわ。」
フリアは真剣といった表情で言ったが、俺には冗談にしか聞こえなかった。
「じゃあそういうことだから!あなたのACのとこにいるからね!」
とフリアは走って格納庫の奥へと消えていった。
(・・・何なんだ一体・・・。)
それでも断り切れない自分を不甲斐ないと思いつつ、俺は格納庫へと向かった。
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