ホーム > 小説ギャラリー > 死神と天使第四章-混沌の序章 第三話-
その約15分後。ミラージュの調査隊のヘリ数機と共にアークの輸送機が到着。
ミラージュから今回のことは一切他言無用と改めて釘を刺されたが、他に大きなことが起きたわけでもなかった。
『それで結局一体全体何だったわけよあれは?』
既に輸送機内でコクピットから出てきていたフリアは、誰に言うわけでもなく大声で言った。
だがそれは誰もが思うであろう疑問ではあった。
今や使われなくなった廃施設の地下にAIを搭載したAC。そしてその奥には謎のACの整備施設。
護衛についていたACがAI機だったことを考えると、奥から出てきたあのACも無人機だと考えるのが自然だろう。
そういえばあの時あのACの動きが止まったのも何故だろうか。あの甲高い音に原因があるのだろうか。
『レイヴン、ちょっとよろしいですか?』
俺の思考を遮るように聞こえてくる声。オペレーターだ。
「・・・ああ、構わん」
『左腕部を回収されたようですがNB12W-WINGのほうの回収はよろしかったのですか?』
あの黒いACを破壊できたのはあのパーツのおかげか、不幸中の幸いというべきか。
俺が回収するためにパージしたはずだったのだが、あの黒いACはあのパーツに当たって転倒。
軽量フレームだったことが問題だったかその際に脚部を破損。
AIではバランスを保つことができずに転倒した状態のまま破壊。
あの様子ではパーツはおそらくもう使い物にならないだろう。
惜しいものではあったが、あまり余裕がなかったというのも事実だ。
「・・・構わん」
『そうですか・・・いえ、こちらが気になっただけなので気にしないでください。それでは』
「あ・・・ちょっといいか?」
『はい・・・なんでしょうか?』
「・・・あの灰色のACの動きが止まった瞬間・・・一体何が起こったんだ?」
『ああ・・・はい、あの時ですか・・・』
「何か甲高い音が聞こえたような気がしたのだが」
『・・・んだのです』
「・・・すまんが聞き取れない。もう一度言ってくれ」
『・・・叫んだんですよ・・・ブレイブさんが・・・』
「ブレイブ・・・ああ・・・フリアか。どういうことだ?」
『・・・どうしたもこうしたも・・・そういうことですよ・・・』
「・・・言っている意味が良く分からないのだが」
『・・・あなたという人は・・・』
彼女は呆れたような声で言った。
『・・・誰かが心配なとき、その人が危険な目にあったら・・・誰だってそれを防ごうとするでしょう。
それがどんな形であれ伝わるように・・・それが心配であればあるほど』
「・・・」
『・・・のに・・・』
「・・・すまんが聞き取れない。もう一度言ってくれ」
『もういいです』
「こちらはよくな―」
一方的に通信を切られてしまう。
結局よくは分からなかったがフリアが助けてくれたというのは事実のようだ。
その後、レイヴンズアークのガレージに着いた。
あのままACを自宅のほうに持っていっても仕方ないからだ。
「それにしても近年希に見る壊れっぷりだな!カイル!」
「・・・ああ」
頭部小破。コア大破。腕部破損。脚部中破。右腕部武器損失。肩部武器損失。
よく生きて帰ってこれたと賞賛を受けるほどだ。
「一体どれだけ強い相手だったんだ?むしろお前よく大丈夫だったな」
「・・・自分でも驚いているほどだ。実際コア内部を改めて見てみると完全にヘシャげている」
「まあこれだけぶっ壊れていると直すより新しくパーツ買いなおしたほうが早いぞ?」
「・・・そうだな」
「じゃあ決定だな。どうするんだ?アセンは。とりあえず左腕は月光で決まりとして・・・
いや、全体的なパフォーマンスを見直したほうがいいか?」
「・・・そうだな・・・一応俺のほうでも考えてみたんだが」
一枚の紙をブリックに渡す。自分なりに考えてみたアセン表である。
「クイーン・・・ヘリオス・・・外部パーツはあまり変更なしか」
「・・・あとは軽くするぐらいしか思いつかない」
「確かにこれ以上削るとちと苦しいな。まあお前に避けられる自信があるならいくらでもするが?」
「いや・・・とりあえずはこんな感じで頼む」
「了解だ。まあ俺流に手は少し加えるつもりだが・・・注文元はいつものところでいいな?」
「・・・もちろんだ」
「まあ任しとけ。多分2週間ぐらいで上がるだろう。色々手を加えたいところもあるからな」
「分かった・・・よろしく頼む」
「ああ・・・あ?これからどっか行くのか?」
「・・・身体検査だそうだ」
「お前それってACを整備に出す前に普通行くだろ?」
「この通り体は大丈夫なのだから問題はないはずだ・・・」
「まあお前はそういう奴だからな。だがなんで今更行く気になったんだ?」
「・・・」
「・・・もしかして彼女が行けって?」
「・・・」
「図星かぁ!?なんだかんだ言っても女には弱いんだなカイルは!」
大声で笑ってみせるブリック。別にそういうわけではないのだが彼に何を言っても今更無駄そうだ。
「まあそういうことならさっさと行ってやれよ!お前のためじゃなく彼女のためにな!」
ガレージの中で大声で叫ぶな。周りの人間が何かと思いこちらを見ているだろう。
俺は1人、ガレージの隅でこんな言葉を漏らしていた。
「・・・カンベンしてくれ」
「・・・胸部の軽い打撲があるだけで目立った外傷はないですね」
「・・・ああ」
「ACのほうの損傷も見せてもらったんですが・・・一度精密検査を受けたほうがいいかもしれませんね」
「いや・・・その必要はない」
「そうですか・・・カイルさん身体検査2年もしてないですし一度受けておいたほうが・・・」
「いや・・・結構だ」
「・・・そうですか・・・まあお体にはお気をつけて」
「・・・心得ているつもりだ」
アーク内にある医療施設を後にする。やはり大きな損傷はない。問題ない。
「で!どうだったのよ?」
声のした方を見ると、椅子に座って膝に手をついているフリアの姿が見えた。
「・・・問題ない」
「まああんたならそう言うと思っていたけどね」
何かを諦めたような言い草。問題ないのだからいいだろう。
「で?これからどうするつもり?」
立ち上がり何かを期待するような素振りを見せるフリア。だが残念ながらその“何か”は俺には分からない。
「・・・とりあえず」
「とりあえず?」
「・・・帰って」
「帰って?」
「・・・寝る」
「寝るのかよ!」
つっこむと同時に俺の胸を右手の甲で叩く。
「・・・もう9時だ」
「“まだ”9時でしょ?あんたは一体何歳だっていうの・・・」
「・・・“まだ”18だ」
「ああ・・・あーもーあんたと話してると面倒だわ」
髪をクシャクシャと掻く。正直面倒なのはこっちだ。
「あ・・・カイルさん・・・とブレイブさん」
また声のした方を見てみると、廊下の向こう側からオペレーターのミリがこちらに歩いてくるのが見えた。
「検査の結果はどうだったんですか?」
「・・・問題ない」
「それはよかったです。ですがカイルさん、一度精密検査は受けたほうがよろしいと思うのですが」
「・・・その必要はない」
「ですが―」
「ミリさんはどうしてここに来たんですか?」
会話の流れを切るフリアの声。正直このまま続いてもさきほどの医者と同じようなことを言うだけであっただろう。
「ええ・・・カイルさんが身体検査をするということだったのでその結果を聞きに行こうと」
「へえ〜・・・別に後で電話でも何でも聞けばいいのに」
「私は自宅の回線番号と携帯端末用のアドレスしか知らないので、すぐに行える通信手段がないものですから」
「むう〜・・・別にそんなに急いでまで結果を知らなくてもいいじゃないですか」
「パートナーであるレイヴンの健康状態を把握しておくのもオペレーターの仕事かと」
「ぬう〜」
「なんですか」
俺の目はおかしくなってしまったのだろうか。
俺には二人の目から変な光の線が伸び、その二つの光線が接するところから火花が飛び散っているように見える。
「カイル!?」「カイルさん!?」
「え・・・はい?」
突然名前を呼ばれマヌケな返事しか返せない。既に意識は他のところへ飛んでしまっていたようだ。
「これからすぐ帰るんでしょ!?」「これからすぐ精密検査受けるんですよね!?」
「え・・・え?」
既に彼女たちの言葉がダブって聞こえ、何を言っているか分からない。
「ぬう〜」「なんですか」
もう既に俺に残された手段はただ1つしかないようだ。
だがその手段を行使することは、同時に自らも危険に身を犯すという諸刃の剣でもあった。
既に危険な状態にいる俺には関係ないのかもしれないが。
「カイ・・・ってどこに行く気!?」「カイルさん!精密検査受けてもらいますからね!」
逃げる姿、脱兎の如く。
俺はまた1人、エレベーターの中でこんな言葉を漏らしていた。
「・・・カンベンしてくれ」
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