ホーム > 小説ギャラリー > 「十字架の天使」 > 第六話「Requiem」
クリフが、ヴィラスと共にガレージに着いた同時刻
ベルザ高原
辺りは宵闇に包まれ、静寂が支配する。
しかしそこには5つの巨人の影があった。そして、その巨人を囲むように幾つかのMT、そしてACの残骸が転がっている。
つい先程まで、ここでは、アライアンス戦術部隊と、幾つかの武装勢力の連合部隊との戦闘が行われていた。
質量共に優れていたアライアンス戦術部隊に烏合の衆ともいえる連合部隊は適う筈も無かった。
「こちらのMT部隊の撤収が完了しました。我々も帰還しましょう」
「了解。よし、作戦は完了した、帰還するぞ」
隊長機と思われる青と白のカラーリングをされた中量2脚型ACは帰還するというサインを機体の身振りを使って送ると、他のACもそれに応えるようにブーストをふかし、この場を去っていった。
しかし、ただ一機だけ青紫色の中量2脚型ACはしばらくこの場に立ち尽くしていた。それは、何かを探しているようでもあった。
「ここにもヤツはいなかったか…」
パイロットはそう呟き、機体を他の隊員が立ち去っていった方向へ向けた。青い炎を吹き上げながら青紫色のACは、先に行った隊員を追う様に飛び去っていった。
ゲイナ基地。元々はクレストのAC部隊が使用していた基地であったが、現在はアライアンス戦術部隊が駐屯している基地である。
青紫色のACは他の隊員より約20分程遅れて基地のガレージに到着した。既に他のハンガーには他の隊員のACが固定されて、整備班が機体の整備を行っている最中だった。
コクピットハッチからはヘルメットを脱いだパイロットの青年が出てきた。年齢は20代前半くらいで銀髪に、紅い瞳をしている。
「レイス・フェイディア中尉」
レイスと呼ばれた青年の後ろから男の声が聞こえた。
「エヴァンジェ……隊長」
声の主はアライアンス戦術部隊司令官のエヴァンジェであった。彼の隣には補佐のトロット・S・スパーの姿もあった。
「先程の戦闘、ご苦労であった……と言いたいところだが、一つ言っておきたいことがあってな……」
「何だ……」
「貴様の戦い方だ。戦意を失った相手にこれでもかと言うぐらい攻撃を続ける、あれでは一方的な虐殺だぞ」
「なにそんなくだらない正義感に駆られているんだよバカか?アンタも元々は傭兵だろ、そんなことでいちいち口出ししてくるなよ……」
「貴様!隊長に向かって!」
トロットはレイスに掴み掛かろうとしたが、エヴァンジェに制止された。
「そうだな、私も元々は傭兵だった。しかし、倫理観というものも覚えた方が良いのではないのか?」
「戦場でそんなもん役に立たねーんだよ、倫理観?バカバカしぃ…もういいか?俺は早く休みてぇ、アンタの小言を聞くのもホント疲れる、さっさとどけ!」
レイスは拳を握りしめ、今にもエヴァンジェに殴りかかってきそうな剣幕だ。エヴァンジェの隣にいたトロットは少し怯えた表情をしている。
「フン、別に小言を言うだけでここに来たわけじゃない、休むのならこれ見てからにしておけ」
エヴァンジェはそう言って、手に持っていた封筒をレイスに渡した。封筒の中には一枚の紙が入っていた。
「異動命令……特務部隊へ俺は異動しろって事か……」
レイスはエヴァンジェを睨みつけながらそう呟いた。
「そういうことだ。1時間後には貴様の機体と荷物は特務部隊の駐屯基地に移動させる、すぐに準備をしろ」
「急な話じゃねぇか……テメェが手を回したのか?」
レイスは一歩エヴァンジェに詰め寄った、エヴァンジェは微動だともしなかったが、トロットはヒッと小さな悲鳴をあげながら2、3歩後ろに後ずさりしていた。
「そんな訳あるか、上層部からの命令だ」
「こりゃいいぜ……アンタの顔をもう見なくて済む、それにこんな所に居続けていたら、俺の目的を果たすことも一生出来なさそうだからな」
レイスは一瞬だけニィと笑うと、右手に握っていた封筒と紙をそのまま握りつぶし丸めて、トロットに向かって投げつけた。
「私もだ、倫理観もわからぬバカの面を見ないで済むからな」
「フンッ」
レイスは、紙を顔にぶつけられ鼻を押さえているトロットを押しのけ、エヴァンジェの隣を横切ろうとした。
横切ろうとした時、エヴァンジェはレイスの方を見た。同時に、レイスの足も止まった。
「レイス、貴様は何のために此処にいる?」
「何……?」
「貴様なら、バーテックスに所属…いや、『十字架の天使』の様にレイヴン狩りをしていたっておかしくない」
「…手段だ…俺の目的を果たす手っ取り早い手段。それだけだ」
「………」
「くだらねぇ質問だ……」
そう呟き、レイスは奥へ消えていった。
3時間後、レイスと彼の機体「ディバイン」を乗せた輸送機は特務部隊の駐屯基地、オクティアル基地に到着した。
基地に着くと、レイスは司令室に連れてこられた。
司令室には司令官と思われる男が一人、部屋の奥の机からレイスを見つめていた。
「よく来たね、急な異動でびっくりしてしまったかもしれないが、我々は歓迎するよ。私はアライアンス特務部隊『レクイエム』の隊長ジェラン・デュミラスだ」
黒いロングヘアーに、金色の瞳の男は静かな声で自己紹介をした。
「レイス・フェイディア中尉であります…」
「いや、本日付けで君は大尉に昇進だ。後でいいからこちらの書類にサインを記入しておいてくれ…」
「どういうつもりで……?」
「戦術部隊ではなかなかの戦果を挙げていたようだね。でも、隊長のエヴァンジェは君に手を焼いていた様だがまあ、彼の器では君を抑えることは無理な話か……君の力は彼の想像を遥かに超えていたんだろう…」
ジェランはそばにあった書類に目を通し始めた。
「元々はアークのレイヴン、だが、登録して3ヶ月後ミラージュと専属契約を結びアークを離反、ミラージュでは、試作型強化人間『D-Plus』の実験体となる……か……」
「どこまで知っている……!?」
「ある程度は調べさせてもらった、私が知っているのはこれくらいだ」
「………」
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。
「お疲れの様だろう、君の部屋は用意しておいた、ゆっくり休むがいい」
レイスは何も言わず、司令室を後にした。
レイスは部屋に戻らず、ガレージに向かうと、すでにハンガーに固定されている自分の機体を見つめた。
ディバインもレイスを見下ろすかのように静かに立っていた。
(くだらねぇな……)
「力?そんなもんじゃない……復讐……それだけだ……これだけのために俺はここにいる、それだけで充分だ!」
そう言うと、突然ガレージの鋼鉄の扉に向かって自分の拳を殴りつけた、ジーンとした痛みと共に拳から血が流れてきた。そんなことを気にすることなくレイスは再び機体を見つめた。
「『アイル』……必ず見つけ出す……そして、この手で葬ってやる……!」
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