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アーマード・コアファン

ホーム  > 小説ギャラリー > 「十字架の天使」 > 第十六話「Missing」

「おいおい…派手にやられたな……」

アンディは大きく溜息を吐きながらミカエルソードを見上げた。

「今まではこんなことは無かったのにな…お前の機体がこんなにボロボロにされるのは」

アンディはチラッとヴィラスを見ながらそう言った。

「………すまない」

「い、いや、別に謝る事じゃないけどな。相手は相当の腕を持った奴だったんだな」

「『紅蓮の狼』と呼ばれていたレイヴンだそうだ。俺はよく分からないが」

「紅蓮の狼か……こりゃやっかいな奴と戦ったな…でも…」

「?」

「案外、優しい奴かもな」

「どういう意味だ?」

「ほれ」

アンディはミカエルソードのコクピット辺りを指差した。

ミカエルソードの全身には弾痕等でかなりの傷を負っていたが、コクピット周りだけがそういった傷は少なかった。ライジングウルフの攻撃の殆どは武器を持っていた両腕に集中していたことが解る。

「…………!」

「どうした?」

「なんていうか…甘いていうか、腹立つような…」

ヴィラスの声は震えていた。

「でも、この時代を何処にも所属せず生き延びているレイヴンの一人だ。油断は出来ない」

トレッドがヴィラスとアンディの間を割って入るように来た。

「奴の事は昔からよく聞いていたからな。不意打ち等は好まない性格らしい。正々堂々と真正面から叩き潰したかったんだろう」

「だからこんな事を?」

「そうかもな」

「…………少し休む…」

「ん?ああ、ゆっくり休んどけ。その間に直しておいてやるから」

アンディとトレッドは少しよろけながら部屋に戻っていくヴィラスを見送った。

「そうとう疲れているようだな、あの様子だと…」

「…………」

「ところで、どうだい。コイツの修理が終わったら一杯やらねぇかい。久々にさ」

アンディは手で酒を飲むような仕草をしながらそう言ったが、トレッドは手を振り、断るという応えを仕草で返した。

「俺も機体の再調整をしなくてはな……」

「どうしたんだい?いつもよりも増して厳しい表情しちゃって」

はたから見れば、ほとんど無表情に近いトレッドであるが、トレッドとは長い間メカニックとパイロットとして付き合い続けていたアンディには彼の微かな表情の変化にすぐ気が付いた。

「……メビウスシティを嗅ぎ回っている連中がいる…」

「どうするんだい?『あの人』には知らせたのか?」

「まだだが、知らせておく必要はある。あそこは俺たちの組織にとって大切な場所だからな」

「なぁ、トレッド。どう思う?」

「何がだ?」

「メビウスシティってさぁ何があるんだ?俺達には組織の大切な重要拠点としか知らされていない」

「だからどうした?」

「いやっ…だから…」

「俺はレイヴンだ。任務以上の事について知る必要はない」

そう言うとトレッドはヘラクレスが固定されているハンガーに向かって行った。

「……相変わらずだな」

頭を掻きながら工具を揃えるアンディの視線の先には仕事熱心な相棒の姿があった。


「ふう…」

基地のシャワールームから出てきたのはヴィラスだった。

ゆっくりと体中の水滴をタオルで拭き取りながらヴィラスは正面の鏡を見つめた。

全身に残る打撲の跡をさすりながら風の感触を感じ取っていた。正確には基地内の空調であるが、シャワーで火照った体をさっぱりさせるには充分だった。

グッと体を伸ばして着替える彼の服は黒のジーンズに黒のTシャツ。普段は白いパイロットスーツを身に纏い、純白のACを駆る彼とは別の印象が伺える。

ウォークマンから流れてくる音楽を聞きながら歩く彼の姿は、何処にでもいそうなごく普通の青年の様に見える。

だが、彼にはぬぐい切れないモノがある。

失った記憶を取り戻すという使命感。

あの日、目覚めた時に感じたあの違和感。レイヴンとして戦うことを決意したあの時から自分自身で決めた事。

それが今、自分の中で揺らいでいる事に彼は気づいていた。

自室に戻り、パソコンを立ち上げる。

パソコンにはヴィラスの直接の依頼主、彼が所属している組織からの依頼のメール等が届いている事があるが今日はそれは無いようだ。

それを確認すると、ヴィラスはゆっくりと椅子に体を預けた。

(『アイル』……何だろうな…引っ掛かる…)

手で顔を覆い、天井を見つめながら頭の中で「アイル」という単語を何度も回らせていた。

耳にはウォークマンから流れてくるロックも今のヴィラスには聞こえてはいないだろう。

そのときだった。

「ヴィーラス!」

ドアを開けて入ってきたのはルシーナだった。突然の事だったのでヴィラスの思考は一瞬だけ止まってしまった。

「疲れているでしょ?ご飯持ってきてあげたわよ」

ルシーナの手には料理が乗っているトレイがあった。

「……あっ…」

腹に手を当てると、グーという音と同時に感じた空腹感に思わずヴィラスは少し顔を赤めた。

「あ、ありがと…ってそのグラスは何?」

料理が持っている皿の隣には人の顔程の大きさがあるグラスの中にアイスクリームやフルーツがたくさん盛られている。

「ルシーナ特性スペシャルパフェよ♪疲れたときは甘いものが一番って言うでしょ」

「でかくないか…?」

「気のせい、気のせい♪」


「どうだった?」

「ハンバーグステーキよりもこのパフェの方がメインだったような…」

ベットの上で満腹感というよりも食べ過ぎという感じでヴィラスは横になっていた。

「さっき、何考えていたの?」

「?」

「…………」

「また、過去の事?」

「だったら…?」

「損していると思わないの?」

「…………」

「それは可哀想な事よ、過去を振り返り続けるのは。苦しい事も思い出さなきゃいけないんだから」

「……どんな結果が待っていてもそれでも俺はやらなければいけないと思っている」

ヴィラスは天井に向けていた視線をルシーナの方へ向けた。彼女はヴィラスを見つめていた。

「で、記憶を取り戻したらどうするつもり?」

「…それは……」

「あなたには大事な物が一つ欠けているわ。それはね…」

そう言うと隣に座っていたルシーナはヴィラスの上に乗り掛かり、顔を近づけ、ヴィラスの耳元で小さく呟いた。

「…?!」

「少しは理解できた?それくらいの事はあなたに出来るはずよ。じゃ、おやすみ♪」

いつも通りの調子の口調でルシーナはそう言うと部屋を出ていってしまった。

「……」

ヴィラスは唖然とした表情でもう一度天井を見つめた。さっきとは変わらない光景だが、微かに甘い香りが残っていた。彼女が付けていた香水の匂いだろう。

ヴィラスは彼女の前向きさが羨ましかった。自分があれ程悩んでいる事をバッサリと切り捨て、バッと自分の意見を言うことが出来る。その強さが彼がレイヴンとして戦うようになってから何度も救われた様な気がした。

同時に彼が抱いてしまった、自分にはそれが無いというコンプレックスの原因であった。

悔しさも残る。それは昔も同じ事を経験しているような気がした。

「……ブレイズ……」

それは、無意識の内に出てきた言葉だった。

だが、その言葉の意味を思い出すことなくヴィラスはゆっくりと深い眠りに入ってしまった。

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