ホーム > 小説ギャラリー > 「十字架の天使」 > 第十九話「Fragment of meory」
ヴィラスはガレージでジャック・Oの宣戦布告の声明を聞いていた。
機体の調整が終わり、ようやく一息付こうとしていた矢先だった。突然ガレージの休憩ブースからざわめきが聞こえてきたのにヴィラスは気が付いた。妙な胸騒ぎを感じ、ヴィラスはブースに向かった。
普段はガレージに殆ど常駐している整備士が寝泊まりするために、ガレージの一角に用意されたブースには人だかりが出来ている。ガレージにいた人間は皆ブースに置かれていた一台のテレビの映像に釘付けになっていた。
映像には黒と銀のツートンメッシュの髪に彫りの深い男の顔が映し出されている。
武装組織「バーテックス」のリーダで、ジャック・Oという名前のレイヴンだと、隣にいたルシーナが言った。
「以前の戦闘で会ったでしょ。白い重量機体のパイロットよ。憶えている?」
(貴様と戦える事…いや、共に戦える事を期待しているよ……)
「…あの時のレイヴンか…」
画面から映し出されているジャックはゆっくりとそして力強く自分の意志を語っている。その声と以前自分に語りかけてきた声が一致してヴィラスはようやく思い出した。
ジャックの黒い瞳にヴィラスは不思議な違和感を感じていた。
(あいつの顔…俺は知っている…?……何だ?これは…?)
視界が一瞬の内に白くなる。
声が聞こえる。悲しく、冷たい声がする。
アナタハヤサシスギル……
…フサワシクナイノヨ…アナタハコノセカイニ……サヨウナラ……
ソレガアナタノレイヴントシテノホントウノスガタ……
更に別の声が木霊する。
ナゼコロシタ!
オソレナドナイ…キサマヲコロスタメナラナンニデモナッテヤル!
クツウニマミレナガラ…シンデユケ!
また誰かが叫んでいる…それは自分の声に似ていた。
ソコマデシテホシイカ?「チカラ」ガ?!
オマエラノスベテヲハカイシテヤルヨ!
コイヨ!ゼンリョクデオマエヲツブシテヤル!
次にはまた自分によく似た声が耳元から囁いている。
オモ…ダ…セ…
…オ……エハ…レダ…
自分を包むように手の感触がした瞬間、視界が暗転した。
「ヴィラス…?」
ヴィラスは、ルシーナが自分の両腕を掴んでいるのに気が付いた。
「どうしたの?いきなりボーッとして…大丈夫?」
ヴィラスを見つめるルシーナは心配そうな表情をしている。そして、掴んでいる手の力が強くなっているのが分かった。
「…………」
ヴィラスは無言のまま首を振った。心配は無用という意味で振ったが、同時にさっきの幻聴は単なる疲れによるものだと自分に言い聞かせる為のものだった。
そうじゃないと分かっていても、そう思いたかった。そうごまかさなければ自分が壊れてしまいそうだった。
------怖い----------コワイ-------
『アイル……』
ドクンッ…
心臓の音が大きく鮮明に聞こえた。
「あ、ぅああああああ!」
「ヴィラス?!」
突然悲鳴を上げ、崩れるように膝を屈したヴィラスにルシーナは驚いた。当然、周りにいた整備達も気付き、再び周囲はざわめく。
「どうしたの?!ねぇ!しっかりして!」
頭を抱え込み、うずくまるヴィラスにルシーナはヴィラスの体を揺すりながら必死で呼びかける。
呼びかけに気付いたのか、ヴィラスはゆっくりと頭から手を離す。
「ヴィラス…」
ルシーナはヴィラスを落ち着かせようと彼の肩に手をかけようとした。
バシンッ
ヴィラスはルシーナの手を乱暴に振り払った。突然の事ににルシーナは怒りを覚えたが、次の瞬間にはそんな気も失せてしまっていた。
ヴィラスの眼がとても鋭く、あのライトブルーの瞳は黒く窪んでいるように見えた。どこか虚ろで無言で睨みつける表情は狂気さえも感じた。
(いつものヴィラスじゃない…)
自分を振り払ったあの手はいつでもこの首を掴み掛かれることが出来る…ルシーナの背中に悪寒が走った。
この異様な状況に周囲は言葉も出なかった。
騒ぎを聞きつけ、フィーネがやってきた。フィーネもこの状況に言葉が出なかった。とりあえず、ヘタリと力なく座り込んでいるルシーナを起こして、ヴィラスから遠ざけた。
何か恐ろしい夢をみてしまったかの様にとても怯えた表情をしているルシーナを抱きかかえながら、フィーネはヴィラスを見た。
ヴィラスはゆっくりと立ち上がり、ルシーナを見ると「悪い」と小さな声で言うと、フラフラとした足取りでガレージから出ていってしまった。
「……ヴィラ…」
その様子を黙って見送ったフィーネの腕の中ではルシーナのすすり泣く声が聞こえた。
基地の廊下でヴィラスは壁に寄りかかっている。
怖い怖い怖い怖い…………コワイコワイコワイコワイ……
体が震え出す。
(何故、何故なんだ?俺は一体……)
--------ダレナンダ?
「ヴィラス」
トレッドがヴィラスに走り寄ってきた。彼を捜すために基地中を走り回っていたらしく少し息が上がっている。
「…トレッドか」
力ない声を出しながらヴィラスは天井に向けていた顔をトレッドの方に向ける。
その表情を見たトレッドは顔には出さなかったが、内心驚いていた。ヴィラスの顔はとても疲弊した表情をしている。
「お前、記憶が…」
「…………」
トレッドの言葉に反応したのかヴィラスは顔をしかめる。
「その話は、今はしたくない」
そうヴィラスは答えると、足早に立ち去った。
「記憶の断片に刺激されているのか!それは今のお前には危険だ!」
トレッドは叫んだが、その叫びはヴィラスには届かない。
---彼は記憶喪失でやや精神が不安定だ。ふとしたきっかけで目覚めてしまうかもしれない。忌まわしい己の過去を…もし、そうなった時は君が支えてやってくれ。頼むぞ、トレッド---
半年前、組織の長と呼ばれる者と面会した時の会話が蘇る。
「俺にはこいつは重すぎるのか…」
溜息を吐き、天井を仰いだ。
無機質な空間がとても冷たく、息苦しく感じた。
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