僕があれを見たのは下校途中のことだ。
突然、鉄の塊のような物が土砂降りの雨のように空から降ってきたんだ。
僕はすぐに近くにあった地下シェルターに非難できたから助かったんだけど、あの雨で優しかった近所のおじさんとおばさんも、学校の友達もたくさん死んじゃった。
雨がやんでシェルターから出たら、外はもうめちゃくちゃだった。
さっきまでいた学校もボロボロ…。
学校前にある文具屋なんか跡形もなくなってた。
瓦礫だらけの道を歩いて自分の家に辿り着いたけど、やっぱり家も崩れてた。
別のシェルターに非難してて助かったお父さんとお母さんと、街を離れて田舎で暮らすことにしました。
街にはその後も『あの雨』が降ることがあって、とても住める状態じゃなかったから。
農村や過疎地域には『あの雨』が降ないらしくて、生き残った街の人達は散り散りになって各地へ疎開を始めていました。
僕達一家が引っ越してきたのは、ナーヴ村という静かな農村で、便利な物が何もなくてとっても不便だけど、『あの雨』が降らないからとっても良い所だと思う。
『あの雨』の正体は、最初は宇宙からやってきたエイリアンだとか神様が下した天罰だとか、一時経ってからは新型のミサイルだとか突然変異したイナゴだとか、いろいろな説が出ましたが、本当のところはまだ分かっていませんでした。
僕が村に引っ越してから2ヵ月くらい経った頃、昼間に外であそんでいたら、ここにも『あの雨』が降ってきた。
でも、一滴だけ。
その雨粒はフラフラとやってきてそのまま僕がいる近くの林の中に不時着した。
僕は怖かったけど、林の中に入ってその雨粒に近寄っていった。
怖さ以上に興味があったから。
今までの雨はみんな地面や建物にぶつかって粉々になってたけど、これだけはそのままの形を残していた。
近くに寄ると雨粒は結構大きかった。
それに近寄って初めてこの雨粒が大きな機械だということが分かった。
大きさは中型の作業用MTくらいはありそうだ。色は赤と黒の2色に分かれていて、あちこちに緑色に光る細いラインがあった。
「まだ動いてる?」
その大きな機械の雨粒にさわってみると、微かに振動している感じがした。
「一体これは何なんだろう…。」
そのまま雨粒に手を当てたままにしていると、一瞬雨粒が激しく震えた。
驚いて手を離して少し後ずさりした時に、雨粒が何か言葉を発したような気がした。
「…ハイジョ。」
それから毎日のように僕はあいつのところへ行った。
行って何かが出来るわけでもなかったけれど、あいつことが気になって暇さえあればあそこへ向かっていた。
「グレインは今何を考えてるのかな…?」
グレインとは僕があの雨粒に付けた名前だ。
僕はグレインの目の前に座って話しかけていた。
グレインは何も言わないけど、何かを言いたそうにいろんな所を小刻みに光らせるんだ。
だけどある日、グレインが動かなくなった。話しかけても光らないし、さわってみても振動してない。
そして体のいたる所に錆のようなものが付き始めた。
スコップを家から持ってきてこさいでみたけど硬くて全然取れない。
しかもそれが物凄い早さで広がって、たった何日かでグレインを完全に包んでしまった。
その後も錆がどんどん膨らんで卵みたいな形になった。
ただ壊れて錆びてしまったのとは違うと思ったから、その後もちょくちょく僕はグレインの様子を見に行った。
ある日、僕達の住む村に武器を持った人達とMTの集団がやって来て、ここを自分達の基地にすると言い出しました。
最近はいろんな所で武装勢力というのが出てきて勢力争いをしているんだそうです。
村の人達は反対したのですが、怖いおじさんが持ってる銃を突き付けてみんなを脅していました。
気が付いたら僕はあいつのところへ走ってた。
大きな岩みたいになったグレインのところへ着くと、僕はあいつに抱きついて震えてた。
「どうしよう。ここも戦場になっちゃうのかな…?怖いよ…。」
僕はグレインに何か期待してたんだろうか…。
いや、そうじゃない。友達と離れ離れになって、僕にはあの時話し相手がグレインしかいなかったんだ。
今にしてみれば、そう思ってしまうんだろう。
「ターゲット…カクニン…。」
「え?」
グレインが何かしゃべった。
そしたら今までグレインを覆っていた塊に亀裂が入って、その塊が壊れ始めた。
「な…何なの!?」
驚いて見ていたら中から見たこともない物が出てきた。
赤い人型の機械…まるでレイヴンが乗ってるっていうACみたいだ。
「排除…開始。」
人型の機械が言葉を発すると、いきなり飛び上がってどこかへ飛んで行った。
「あ!待って!」
あいつはあのグレインなんだろうか?それとも全くの別物?
とにかく僕は飛んで行くあいつを追いかけた。
あいつが向かった先はあの怖いおじさん達のいる所だった。
「ん?何だあれは!?どわああああ!」
「排除。」
「AC!?敵襲ー!!ぐは!」
「排除。」
「撃てー!撃てー!うあああああ!」
「排除。」
「なんで当たらない!?ぐわああああ!」
「排除。」
「つ…強い!うわ!」
「排除。」
「たっ…助けてくれ!ぎゃああああああ!」
「排除。」
僕があいつのところに辿り着いた時には、ここを占拠していたMTはみんな破壊されていた。
そして怖いおじさん達もみんな村から逃げ出していました。
息を切らせながら、動きを止めたあいつを見上げると、あいつが僕の方を見下ろしてこういった。
「排除完了。」
こいつはグレインなのだろうか?確かめずにはいられなかった。
「君は、グレインなの?」
そう聞くとあいつは何も言わなかったけど、体にいくつかある緑色の部分を小刻みに光らせていた。
間違いない。グレインだ!よく見ると背中から伸びてる物には、雨粒だったときの面影がある。
あの塊の中でグレインは、幼虫からさなぎ、さなぎから成虫になる昆虫ように成長していたんだ。
そしてこの村を守ってくれたんだ。
村のみんなもお父さんもお母さんも、最初は怖がって遠くからグレインを眺めていたけど、そのうち村を守ってくれたことが分かって、近くまで来てグレインを見上げていました。
そして村の人達も僕も、守り神が来てくれたんだと言って喜んでいました。
しかし、それも長くは続きませんでした。
「本当なのか?6機のCR-MT85が1機の不明機に一瞬で撃破されたというのは。」
「間違いないようです。同行していた武装勢力の歩兵達が皆、そう証言しています。
あと、その目撃証言とレイヴンズアークのデータバンクにあった正体不明機リストと照合してみたところ、あるレイヴンが旧世代の施設で遭遇したコードネーム“ガーディアン”と呼ばれる人型の無人機と同一の機体である可能性があります。」
「あるレイヴンとは、『あの雨』からベイロードシティを守ろうとして死んだ彼のことか。」
「そうです。そしてその彼でも、あの機体には手を焼いたそうです。」
「彼とは是非一度、戦ってみたかった…。それにしてもそれだけ強力な敵に、依頼者は新人の私で敵うと思っているのか?だとしたら、私も買い被られたものだ。」
「ご謙遜を。初仕事でレイヴンズアークにおいてトップクラスのランカーACであった『アイアンL-OW75』を討ち倒したあなただから、この依頼が舞い込んだのですよ。」
「ふっ…あれがトップクラスだったとは笑わせる。」
「間もなく目標地点に到着します。」
「さあ、どれ程の強さか楽しみだ。」
「グレインが言葉をしゃべれたら良いのにな。」
あれから2日が経った。
その間、グレインは全く動かないけど、僕と話をしている時は、僕の方を向いて目を点滅させるように光らせていた。
グレインの正体は良く分からない。
他の雨粒達は集団で街を破壊しているのに、グレインはこの村を守ってくれた。
言葉をしゃべれたならその理由を聞くことができるのにな。
ただ、『排除』とか決まった言葉だけは言えるみたいだ。
やっぱりグレインは破壊の為の兵器なんだろうか…。
「敵…接近」
グレインがまたしゃべった。敵?グレインが向いた先を見上げると、1機の飛行機がこっちに向かって飛んできた。
「排除。」
そういうとグレインは背中から長いキャノン砲を伸ばして接近中の飛行機を攻撃し始めた。
「撃ってきた!?避けられない!」
飛行機はグレインの攻撃を受けて落ちていきました。
「巻き添えは御免だ。」
落ちていく飛行機の中から何かが飛び出した。
あれは、ACだ!おとといグレインにやられた武装勢力が雇ったんだろうか…。
「輸送機ごと狙うとは…雨粒といいガーディアンといい、旧世代の遺産というのは本当に見境がないな。」
ACは地面に着地するとすぐにグレインのいるこっちに向かってきました。
「ターゲット追加、排除。」
グレインは飛び上がってそのACと戦い始めました。
「さすがだな。彼が手こずったと言うだけの事はある。」
「排除。」
「人の真上をフワフワ飛び回って!あまり手間を掛けさせるな!」
「排除。」
最初はグレインの方が優位なようでした。しかし…。
「奴のパターンが読めてきた…所詮は機械か。」
徐々にACの動きが良くなってグレインを攻め始めました。
そして少しずつ、グレインが傷ついていきました。
「排除。」
「グレインがんばれー!」
「もらった!」
グレインがキャノン砲の発射形態になったところを見計らってACがミサイルを大量に発射しました。
それが全部グレインに命中して、グレインは太い煙を出しながら落ちて行きました。
「グレイィィィィィン!!」
グレインは地面に激突して爆発。僕は急いでその場所に駆け寄っていきました。
だけど、あのACが前に立ち塞がって邪魔をしてきました。
「何をしている!危ないぞ!」
「うるさい!どいて!」
ACの脚の間をすり抜けてグレインの落ちた場所に辿り着きました。そこにはボロボロになったグレインがいました。
「ああっ!グレイン…!く〜…。」
僕が泣き崩れていると、後ろからACから降りたレイヴンが歩いてきました。
その人は女の人でした。
「何故悲しんでいる。奴はこの世界を破壊し尽くした旧世代の遺産、人間の敵なんだぞ。」
「グレインは敵じゃなかった…。この村を守ってくれたんだ!それなのに…。」
レイヴンは呆れたような顔をしてACに戻り、そのままACに乗って帰って行きました。
「レイヴンの…馬鹿ぁぁぁぁ!」
それから、何年か経ちました。
この村はあれから一時武装勢力の勢力下に置かれ、その後アライアンスとバーテックスの抗争の時に武装勢力がレイヴンによって壊滅させられて、それ以後、ここはどこにも属さず穏やかな日々を送っています。
これまでの研究と情報公開によって、『あの雨』の正体が大昔に栄えていたという旧世代の文明が創り出した破壊システムであり、ナービス社がそれを掘り出し、キサラギ社がそれを起動させたことが分かってきました。
そしてあの雨の破壊目標が人間の創り出した文明そのものであることも。
街に雨が降って、村に降らなかったのもそれが原因だったようです。
最近、ここも人が増えてきて以前よりだいぶ発展してきました。
あの時村を守ってくれたグレインも、今のこの村なら破壊目標にしていたのかもしれません。
例え、もしそうだったとしても、君は僕の友達だからね。グレイン…。