ARMORED CORE FAN

アーマード・コアファン

ホーム  > 小説ギャラリー > ある水素スタンドの24時間

「急にすまないが、頼みがある。明日までずっと店を開けていてくれないか?」
 午前8時。店を開けた途端に現れた女性客から、その店の店長は突然、変った要求をされてしまった。
「これから丸1日程忙しくなりそうなのだ。そのために燃料補給が欠かせないのでな。」
 そういう彼女は、最近傭兵を始めたこの店の常連だった。傭兵が操るアーマード・コアという兵器は、他の兵器や乗用車と同じく『水素』を燃料に動いている。この店はその燃料である水素を商品としている『水素スタンド』だった。
「前払いで延長料金を支払わせてもらう。ガス代は別に、その都度払わせてもらおう。悪い話ではないと思うが?それでは頼む。」
 そう言って彼女は店長である男に現金で100コームを手渡すと、返事も聞かずに去っていった。
 彼女は1日限りの24時間営業を要求しているつもりなのだろうが、店長からすると翌日の朝8時からまた営業時間が始まり、夜の8時まで店を開けていなければならない。つまり連続36時間の営業を要求されたのも同然だった。
「えぁ…、困ったな…。まあ、仕方ないか。」
 しかし庶民からするとかなりの大金を渡された店長は、電話で自宅にいる妻に明日まで帰らない旨を伝え、近日中の家族旅行の約束をするのだった。

 急遽、朝8時から翌日の夜8時までの連続36時間営業をする事になった水素スタンド『デューク・ハイドロジェンSS』唯一の店員であり店長のデュークは、とりあえずは平常と変らぬ朝を過ごしていた。
「ありがとうございましたー!お気を付けてー!」
 店長は燃料を補給して発進してゆく自動車を見送る。
 その自動車の足元にあるのは、辺りに何もない荒野を突き抜ける1本の道路。永きに渡って街と周辺の町村を繋ぐ道路として人々に利用されており、そしてここで店を開いているデュークの生活の糧となっていた。そして半年前には全世界の人間を恐怖と絶望の淵に追い落とした『あの雨』が街に降り注ぎ、住処を失った人々が周辺の村などへ集団で疎開するための道となったのを覚えている。
 あの時からこの道を往来する人の数は激減したが、それでもデュークは、この店を開け続けている。
 妻からはこの仕事をやめて別の仕事に就いた方が良いと日頃から言われているが、自分のスタンドがこの道を走る車たちの唯一のオアシスであり、このスタンドがなくなった時、車達の殆どは目的地に辿り着く前に飢え死にしてしまい、それに乗る人々が困り果ててしまうことを店長は分かっているため、この店を閉めることができないでいる。
 それに各地にあの雨が未だに降り続いて社会も経済も混乱している状況下では、どんな仕事をしたとしても生活が楽になる補償は何処にもなかった。
 あの雨は降り始めてから以前に比べ頻度は下がってきてはいるが、今も降り続いていることに変わりがないため、村の方から街へ向かう車の数は極僅かであった。
 先程の車はその珍しい方の1例である。なんでも家に大事な物を置き忘れていたそうだ。その家が今も残っているかどうか定かではないが…。

 あれから1時間が経過した午前9時ちょっと過ぎに、彼女が本日最初の補給に現れた。彼女の乗るACは灰色をベースに各所に紫色のアクセントを効かせた配色を施した人型であり、左肩には女性をかたどった香水瓶のエンブレムがあしらわれていた。ACの名前は『魅了させる者』だそうだ。
 だが、一般人のデュークにはAC等の兵器は本来恐ろしい存在であり、同じ言葉に『恐怖にすくませる者』という意味もあるので、そちらの方が合っている気がした。
「満タンで頼む。」
 指示された通りに店長は膝を付いて鎮座するACに駆け上がり、人間でいう脇腹に相当する場所にある燃料補給口を開いて、そこへ水素供給ノズルを差し込んだ。そこから流動食の如く巨大な人形の胃袋へ液化水素が勢い良く流し込まれる。しかし、それは大した時間を掛けずに、ノズル先端に付いたセンサーによって強制的に打ち止めを食らわされた。胃袋がいっぱいなったというサインが出たのだ。
「あれ?お客さん。燃料、あまり減っていなかったんですね。」
「ああ。依頼があってそこへ駆けつけたら、依頼者側が既に全滅していたのだ。恐らく同業者の仕業だ。この落とし前は必ず付けてやる。」
 そういって彼女は自分のガレージへ帰っていった。
 彼女のガレージはこの店のすぐ近くにある。彼女は任務を終えてガレージに帰る前にこのスタンドに立ち寄り、燃料を満タンにしておいて、修理が済み次第いつでも出撃できるように配慮しているのだそうだ。

 客もいなくなり、事務室に戻ってテレビを点けた店長は、現在、企業連合体アライアンスに対し武装勢力バーテックスが襲撃予告をかけ、そのために各地で激しい衝突が始まっているらしいというニュースを目にした。恐らく“これから忙しくなる”と言っていた理由はこれで、彼女はその戦場に赴いているのだろう。
 一般的にレイヴン達は、旧レイヴンズアークが所有していたレンタルガレージを使用し、燃料もバイヤーなどを通じて、独自ルートで調達しているという。
 彼女の場合はたまたまガレージの近くにあったので、このスタンドを利用しようと考えたのだと言っていた。その方がバイヤーに輸送料やマージンを取られず、燃料代を安く抑えられるのだそうだ。
 確かにそうでもなければ一般市民向けのこのスタンドを、最強の戦闘兵器であるACが利用するはずもないだろう。
 作業用のMTが燃料補給をしにくることはどこのスタンドでもざらにあることだが、お得意様にACで乗り付けるレイヴンがいるという話は聞いたことがない。恐らくこのスタンドが唯一の例なのだろう。
 4ヶ月前ほど前に、初めて彼女がACでこの店に乗り付けてきた時は、てっきりここを占拠しにきたと思ってしまい、彼女が私の前に歩み寄り言葉を発するより先に、自分の両手が天高く聳え立っていたのを覚えている。
 その時、彼女は少々困った顔をして笑っていた。そういえば、それ以来彼女が笑うところは見たことがない。

午前11時に、彼女は再び燃料補給をしに来店したが、特別何も語らず、憂鬱そうに空を眺めていた。まだ今朝のことが気に掛かっているのだろうか…?

 次に彼女が現れたのは午後3時過ぎだった。今回は真っ当な戦闘があったらしく、機体には僅かに先刻には無かった弾痕が刻まれていた。燃料である水素も今回はかなりの量を飲み込んだ。
「今回はせっかく面白い相手と戦えそうだったのに、とんだ邪魔が入ってしまった。」
 彼女は悔しそうに左の掌を右の拳で叩いていた。その彼女に、デュークは今回衝突しているアライアンスとバーテックスのいずれかの勢力に加担しているのかを訊ねると、彼女は鋭い眼光で店長を睨みつけて「バカバカしい…!」と一蹴した。
「群れなければ生きていけないなど、情けないにも程がある。私は誰にも頼らず自分の力で生きていくと決めているんだ。」
 ニュースによると、両陣営共に仰ぐ旗を替えた者が数名出てきているらしい。中にはアライアンス部隊の重職も混ざっているとか。彼らにもいろいろと事情があるのだろうが、たった数時間で衣替えというのは…情けないとしか言いようがない。全ての人間が彼女のように強くはなれないということか…。

 午後4時過ぎ、4度目の補給のために彼女がやってきた。多少の被弾箇所が見受けられるが、大した傷ではなさそうだった。
「『モリ…なんとか』っていう奴。私はああいう勘違いをしている輩が大嫌いだ。以前トップランカーだった男の機体を真似て強くなった気でいるとは…。AC同士の戦いでは、機体性能よりもパイロットの腕の差が物を言うことをその身で味わわせてやったさ…!今頃あの世で思いっきり反省していることだろうよ!」
 どうやら、先程同業者の1人を葬ってきたようだ。それでいて大したダメージを受けていないあたり、彼女はレイヴンと呼ばれる傭兵達の中でも高い能力を持っているのだろう。
 彼女の言動を見る限り、人を殺める事に対する罪の意識などは微塵も感じていないように思える。殺るか殺られるかの世界にいきる傭兵なら致し方のないところだとは思うが…。
 人を1人でも殺せば殺人犯となり、一生後ろ指を指されることになる一般人という身分のデュークには、その感覚のズレを感じずにはいられなかった。
 今までになく憤りを顕にしている彼女は大分疲れてきているようにも見えた。通常、レイヴンは1日に1件ほどしか仕事を請けないらしい。それに比べて今日は既に4件もの仕事を請けている。この後も夜遅くまで仕事がある事を考えると精神的にも辛いものがあるだろう…。
「これを飲みなさい。」
 店長は傭兵に自販機から買った栄養ドリンクを手渡した。渡された傭兵は一言礼を言うとそれを一気に流し込んだ。

 午後6時の時点で既に全レイヴンの3分の1程が死亡しているそうだ。そんな中、謎の正体不明機が現れだしたという。一体何者なのだろうか…?
 午後6時10分頃に朝早くに街の方へ忘れ物を取りに戻っていた車が帰ってきた。店長の予想どおり、家はその後の雨で粉々と言って良い程に壊されていたそうだ。夢のマイホームを手に入れてまだ1年も経っていなかったという。失意のドライバーは燃料補給を済ませて疎開先の村へと戻っていった。その村では一体どんな家に住んでいるのだろうか?店長は聞きそびれてしまった。

 午後8時、本来なら閉店の時刻であるが、本日これからは臨時営業となる。その約25分後に5度目の来店があった。特別傷を負った様子も無く、比較的簡単なミッションだったようだ。彼女に夕食を摂ったのかと訊ねると、「まだだ。」との回答があったので、先刻妻から2人分買出ししてもらった夕食の弁当を手渡した。彼女はそれを抱えて愛機へ舞い戻り店を後にした。

午後10時、各チャンネルのニュースで先刻から正体不明の兵器が突如現れて各地を荒らし回っているという情報が錯綜していた。アライアンスとバーテックス両者ともそれとの関連を否定しているという。
 状況はますます混迷を深めて、庶民の理解力では到底推し量りきれないものになってきていた。

 午後11時過ぎにまた彼女が帰って来た。これで本日6度目となる。今回のダメージは今までにないものとなっていた。各所に被弾した痕が見受けられた上、機体左腕の肘から下が破壊され、骨格の一部のみが残る状態となっていた。
 彼女にこれほどの手傷を負わせる者がいるとは…と、デュークは驚いていた。
「また大事な勝負に横槍が入ってしまった。あれだけ手応えのある相手は久しぶりだったのにな。奴との決着は近い内に必ず付けたいところだ。」
 それから、彼女は以前この近くの村を占拠していた旧世代の無人兵器と戦ったことがあり、それには苦労させられた事や、その無人兵器を倒した後にそこへ駆け寄ってきた変った少年がいた事などを店長に語った。

 そしてデュークは店の中で日付変更の時刻を迎える。こんなことは開店以来22年間、めったに無いことだ。
 眠気も僅かに感じ始める。いつもならソファーにもたれ掛かりながらテレビを眺め、うとうとと船を漕ぐようにして、覚醒と睡眠の境界を彷徨っている頃だろう。
 その30分後位に、彼女は本日最初の来店をする。
 先刻の損害は既に修復されており、今回の戦闘でもさほどのダメージは受けていないようだった。しかし、どこか機体そのものに疲労のようなものが蓄積されているような気がしてならない…。

 午前2時になる。眠くて仕方がない…。冷水で顔を洗うも、効果は一瞬しか持続しなかった。飲み干した空の缶コーヒーの山が、そのまま眠気のバロメーターと化して盛り上がってゆく。飲みすぎは体に良くないと分かっているのだが…。

 午前3時前に8度目の補給のため、彼女が来店してきた。
 彼女はまた一段と不機嫌になっていた。
「アライアンス部隊の元隊長だった男と戦ってきた。だが期待していた程大した相手ではなかった…。あれで自称『ドミナント』とは聞いて呆れる…。最近の同業者は骨のない奴ばかりでつまらないな。こんな時、彼が生きていれば楽しい一時が過ごせたのだろうが…。代わりになりそうな骨のある男が1人だけいるから…それで我慢するか。」
 “彼”とは恋人の事だろうか?浮世離れした感のある彼女に、彼氏という存在は似合わないような気がした。考え直してみると、その代わりがレイヴンということは“彼”もレイヴンなのだろうということにデュークは気付いた。
 以前に彼女も認める強力なレイヴンがいたのだろう。かつて最強の名をほしいままにしていた『ジノーヴィー』というレイヴンのことなのか?もしくはその彼を倒したレイヴンがいるということなので、その人物のことなのだろうか…?
 しかし彼女は何故それほどまでに強い好敵手を求めているのか…。敵は自分より弱い方が良いに決まっている。そうでなければ自分が殺されてしまうのだから…。
 もしかしたら、彼女は死に場所を求めているのではないかと、店長は一瞬不安になった。

「どうして、君はレイヴンなんかになったんだい?」
 本人も気付かないうちに、デュークは傭兵にそんな質問を投げかけていた。自販機の横に置かれたベンチに腰掛けながら、ブラックの缶コーヒーを飲んでいた彼女は、質問に対して意外なほど素直に答えた。
「理由か…。ただ…『力』が欲しかった。スラムに生まれ育った私は、企業の金持ち共が我が世の春を謳歌している様を、ただ指をくわえて眺めている事しか出来なかった自分が嫌いだった…。そして半年前。あの雨が降り注ぐようになってから、周りの状況が一変した。いくらお金があってもあの雨には通用しない。…力がなければ生き残れない時代になったのだと…感じた。その時、私はレイヴンという存在を知った。彼らは力においては右に出る物は無く、力さえあれば誰にも媚び諂う必要もないというではないか。私の生きる道はこれしかないと感じた。私は元々弱くて臆病な人間だったから…とにかく力を求めて、レイヴンになる道を選んだのだ…。」
 途中からは問い掛けた店長にではなく、過去の自分に語りかけているような気がした。そしてその答えを聞いた時、彼女はより強い敵と戦い、それを倒していく事で自らを更なる高みへと昇らせようとしている努力家であるということをデュークは知った。
「君も疲れているだろう…。今日は切り上げて、もう帰って寝た方が良いと思うぞ。」
 彼女がいくら努力家であるとしても、今回のように寝る間も惜しんで戦う必要はないだろうと考えるスタンドの店長は、傭兵に休息を取るように勧めるのだった。しかし、この戦いに何がしかの意義を見出している彼女に、それを聞き入れる様子はない。
「それはだめだ。この戦いを放棄することは私にはできない。今回のことは単なるアライアンスとバーテックスの勢力争いではないようだが、そんなことは私にはどうでも良い事だ…。あと少しでこの戦いも終わる。私が望むのは、それまで戦って、戦い抜くことだ。そして全てのレイヴンを倒し、最後の1人になった時、私は…。」
 独り言のように呟きながら、彼女は何かに取り憑かれたかのようにゆっくりと立ち上がり、燃料補給を終えて主を待つ愛機へと向かって行った。その足取りは重く、彼女はもう肉体と精神共に疲労の極地に立っているとしか思えなかった。それでも何故戦うことに固執するのか、店長には理解できなかった。
「おい!」
 デュークは思わず彼女を呼び止めてしまった。
「なんだ…?」
 疲れているためか、彼女は不機嫌そうにこちらへ振り向いた。彼女の目の下には疲労と睡眠不足を象徴する隈が現れているのが見受けられた。
「あ…。いや、何でもない。」
 呼び止めた手前、「無理をするな。」とでも言おうかとも思ったが、もう既に無理をしている状態の彼女に言うのもおかしいと思って、デュークはその発言を取りやめた。
「ふふっ…お前…、寝ぼけてるんじゃないのか?約束なんだから、ちゃんと8時までは起きていてくれよ。」
 その時、彼女は店長に2度目の笑顔を見せて去っていった。今度は眠気で引きつっていたが。

 午前4時過ぎに、デュークのスタンドの真上を激しいローター音を響かせながら、1機の大型輸送ヘリが通過して行った。その腹には、いつもより重武装がなされた彼女の機体が…。連続9回目の出撃である。深夜のニュースを見るに、アライアンスとバーテックスの戦いはどうやら終盤に近づいているらしい。どちらも甚大な損害を被っており、襲撃予告より前に決着が付くだろうと予想されていた。彼女も、これが最後の出撃になるのかもしれない。
「必ず、戻って来いよ…。」
 店長は天を仰ぎつつ、夜の闇に消えてゆく彼女を見送った。
 その時に見えた寒空に浮かぶ星々の大河が美しかった。

 あれから、2時間位経っただろうか。ニュースで昨日の襲撃予告から24時間続いた熾烈な戦いが幕を降ろしたという情報が伝えられていた。バーテックスによるアライアンス本部襲撃予告時間の20分前であったという。
 アライアンスはその戦力の9割を失い、その陣営にいた全てのレイヴンが戦死したという。
 バーテックス陣営もほぼ同様の損害を被り、首謀者のジャック・Oは行方を暗ましてしまったそうだ。
 実質的に痛み分けという結果に終わり、一体何のために皆、命を賭して戦っていたのか、デュークは理解できなかった。
 ニュースを見終えた店長は、店の外に出て辺りを見回した。戦いが終わったのだからそろそろ彼女が帰ってくるはずなのだが…。

 いっこうに戻って来る様子のない客を待つ店長の前に突然、巨大な光の塊が現れた。それを目の当たりにしたデュークは眩しさのあまりとっさに腕で目を庇った。
「う…、朝か…。」
 それは夜の終わりを告げ、新しい1日の到来を告げる金色の朝日だった。地平線の彼方からやってきたそれを見つめながら、デュークは彼女がもう帰ってこないのかもしれないと思えてきた。

「最後の最後で…?それはないぜ、お客さん…。」

 同じ頃、別の場所から同じ朝日を眺めている青年がいた。現在、世界でただ1羽となった最後のレイヴンである。
 彼は先程までいたもう1羽の烏との死闘を生き抜き、代償としてその相手を死に至らしめた。しかし、それは彼にとって非常に不本意な戦いだった。
「こんなにも、悲しい夜明けは初めてだ…。」
 壮絶な24時間を戦い抜き、心身共に激しく疲労した青年を、朝日は彼の生還を祝っているかのように、彼と彼の愛機を暖かく照らしていた。

 午前8時を向かえ、彼女から提示された約束を果たした店長は、引き続いて本日の通常業務を開始する事となったのだが…。
「すいませーん。あれ…店長?」
 1人の作業用MT乗りが燃料補給のため来店するも、対応するべき店員が現れなかった。
「……。」
 事務室のソファーで完全に力尽き、死んだように眠っている店長を見つけたその客は、しばし困り果てた様子で彼の起床を待つ羽目になった。

 今回の死闘が終結して後も、アライアンスが継続して世界を動かして行く事に変わりはなかった。全ては無駄であったかのように思われた。
 だが、その日以降、あの雨が降り注ぐことは二度となくなったという。
 一般の人々が、無意味としか思えないこの戦いの真実を知るのは、あるレイヴンのリサーチャーをしていたという人物が、旧世代の遺産、インターネサインに関する情報を公開する半年ほど先のことになる。



オマケ

 あの日から1ヵ月位が経った。人々は徐々に街へのUターンを始め、デュークの店は以前のような活気を取り戻しつつあった。
 そんなある日、デューク・ハイドロジェンSSに、あるお客が来店した。
「坊や、何だいそれは?」
 村側から街へ向かう途中、燃料補給に立ち寄った3人家族の乗る自家用車。前席に乗る夫婦によると、あの雨で半年前からナーヴという片田舎に疎開していたが、あの雨が降らなくなったので久しぶりにこれから街の様子を見に行くところだという。
 その後部座席には少年が乗っており、その少年は何やら赤い金属の欠片のような物をペンダントにして首から提げていた。
 それについて店長が訊ねると、その少年はこう言った。

「大事な、友達です。」

 

 

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